「具体的なことしか信じない人たち」
エコノミスト
田代秀敏氏
田代 東京大学や早稲田大学でも同じようなことがあったんです。彼らが中国に帰って、「知ってるか、おれたちは中国人だぞ、支邦人だぞ、Chineseだぞ」と、ふれまわったわけで、中国人というのはそういう概念なんです。
だから、中国人についての一般論は、とても難しいのですが、むりやり一般化すると、中国人とは次の2つの特徴をもつ人たちなのです。
ひとつは「漢字だけを使う人たち」
もうひとつは「具体的なことしか信じない人たち」
二番目の特徴を、吉川幸次郎という中国学の碩学は、中国人の思考の特徴は自分の素朴な感覚への絶対的な信頼であり、だから、中国人は感覚を超えた存在をあまり信頼せず、冷淡になりやすいと述べています。
運営者 感覚というのは五感ですか。
田代 五感ともちょっと違うんです。中国では「味わう」というのが非常に重要な感覚なんです。フランス人はよく「美しい」と言いますが、中国人は「おいしそう」と言います。「食べたらうまそう」というのが最高の褒め言葉なんです。だから、他人の家にお呼ばれされたときには、その家の子供を「子豚のようにかわいい」と褒めると、その子もその子の親にもよろこばれます。
中国人という概念はこういうふうに非常に漠としたものなのですが、漢字だけを使い、なおかつ、自分の素朴な感覚を100%信じている人たちということが最大公約数だと考えるのが好いでしょう。中国人は、自分の素朴な感覚の対象にならないものや、感覚を超えたものは信じません。
運営者 例えばコンセプトとかも信じない。
田代 「死」なんかもそうなんですよ。中国の人は死について極めて無頓着です。ほとんど考慮しません。感覚を超えた死後の世界について考えている節があまりない。
あえて言うと中国人は、死もいまの世界の延長だと考えています。だから中国の葬式では、金箔や銀箔を貼ったお金のおもちゃを燃やします。どうやらATMがあの世にあって、燃やすとそのお金がATMに入っていってお父さんやお母さんがそのATMからお金を引き出せると考えているらしいんです。
「あの世でもお金がいるんですか」と聞いたら、「それはそうでしょう。ものを買うにしても、役人を買収するにしてもお金が必要ですよ」と答えます。
だからあの世にも今と同じ世界があると考えていて、商店があって、役人も腐敗していて、現世の仕組みが死後もそのまま続いているのだと信じているわけです。
運営者 本当の現実主義者ですね。「天国はパラダイスであって、地獄はどうしようもないところだ」という感じではなくて、「あの世もこの世の延長でしかないのだ」という認識ですか。
田代 だから中国人の想像力、イマジネーションはおもしろいですよ、日本人と全然違っていて。ただしよく気をつけてみるとすべて「感覚の内側」にとどまっているんです。哲学的なこと、形而上学的=メタフィジカルなことはまったく関心を持ちません。関心があるのはフィジカルなことだけです。