所得倍増政策への世界からの期待
エコノミスト
田代秀敏氏
運営者 それで、こういうことなんじゃないでしょうかね。アメリカは移民を受け入れて人口は3億人を突破しました。それで「自由主義で頑張ろう」という腹づもりです。一方中国は、共産党支配の下、13億人といわれる人口パワーが経済力を支えて、いま田代さんがおっしゃったようなマジックを可能にしています。
今後の世界は、たぶんこの両者による力のせめぎあいになるんでしょうね。
田代 『フォーリン・アフェアーズ』の08年6月号に、 フレッド・バーグステンが「米中によるG2形成を」という論文を書いています。あの雑誌に出たということは、すでにアメリカの政策オプションに入っているということでしょう。
運営者 民主党政権だし、民主党寄りのバーグステンだし。
田代 英文のタイトルはPartnership of Equality、「対等のパートナーシップ」です。
運営者 そんなもん、中国の辞書にはありませんよ。
田代 日本語訳がうまいですよね。08年10月末のThe Economistでは、「アメリカの連邦準備と中国が利下げしました」と報道されていて、日本の利下げなんかニュースにもなりません。世界がそういうふうになっちゃったんです。それは大きいですよね。世界経済にとって一番怖いのは、中国が米国債を買わなくなるか、売り出すことです。
運営者 もちろんそうです。今までは同盟国である日本がTBを買っていたから安心だったわけで。しかし本当に中国と共存することが、アメリカを盟主とする自由主義経済の国家群にとって利益になるのかどうか。現在の危機を乗り越えるための苦し紛れの判断ではなくて、その先数十年を想定した深慮がなされているのかということに関しては、検証が必要だと思いますよ。
田代 今のアメリカに、その余裕はないですよ。
運営者 「なんでもいいから、助けてください」になっちゃってますからね。
田代 日本は頼りにならないし。アラブの連中はよくわからないし。比較するとまだ中国のほうがよさそうだなと。
しかも中国には、今回の金融危機に対して奥の手があります。中国共産党が、「中国の内陸部の農民の所得を、2020年までに2007年の水準の倍にする」と宣言したんです。地球人口の8分の1の人間の所得を12年間で倍にすると宣言したんですよ。これに対して、日本以外の国は色めき立っています。フィナンシャル・タイムズなんか、「中国が世界を救うのではないか」と。
運営者 話のつながりからいうと、党が公言した以上はやるということですよね。
田代 実現させなければ、党が権威を失い崩壊してしまいますからね。
運営者 もし中国の農民層の所得が倍になれば、これは経済的には非常に大きな意味があると思います。