株主利益を実現する経営チェック体制【1】
手塚 代表取締役名誉相談役 2000.1.17
運営者 手塚さんは、現在実際にアメリカ企業の経営を、CEO補佐として間近に見ていらっしゃるので、"経営"を巡るもろもろの疑問について伺いたいのですが、まず最初に聞きたいのは、"ビジネス・マインド"とは何かについてなのです。"ビジネスをする"というのは、一体どういうことだと考えるべきなのか……。
手塚 日本の場合、"経営者はビジネスのプロフェッショナルである"という認識が薄いような気がしますね。
日本の経営者というのは、"その会社のサラリーマンの中で一番偉くなった人"って感じですか。
運営者 「一等賞」ですな。用意スタートで走り始めて、最後までたどり着いた人たち。彼らがどんな経営をするかどうかはあまり問題ではないと。
手塚 なぜなら、日本のカイシャというのはみんなでかつぐ御神輿であって、上に立つ人間が「よーし、みんな明日からやり方を変えるぞー」と言ったからといって、みんなついてくるかといったら、ついてこないようにできてるんです。
運営者 トップダウンは不可能である。
手塚 で、アメリカの場合はそれができるわけですよ。なぜかというと、経営者は、会社という組織に、株主からの資本と、銀行からの借り入れと、会社の設備と人材を使って"利益"を出し、その利益を社会に還元するための"全て"を決めていく人だからです。それができなければ、極端な話1年かそこらでクビにされちゃいます。
アメリカの経営者は、みんなそれだけの覚悟があってやっているんです。そのかわり、「社長をやれといわれている以上、私に金も人も、仕事のやり方も、100%自分で決める権限をください」と言って、取締役会から承認のサインをもらって経営者に就任するわけです。
運営者 てことは、気に入らなければ社員をクビにできる。
手塚 もし、自分の言う通りに社員が動かなくて、その結果業績が下がったら自分がクビになってしまう。それじゃあかなわないから、自分が信頼している「出来る」社員と入れ替えるわけです。やらなきゃあ自分がクビになってしまう。根本に、経営者自体が、外部(株主)に人事的に縛られているという構造があります。
運営者 経営者は、なんでもやっていい勝手な権利を与えられているのではなくて、株主から経営権を負託してるわけですね。それで、どういう仕組みで経営者は監視されてるんですか。
手塚 一つは株主、そして株主の立場を代表している社外取締役による監視ですね。社外取締役は、経営者がやっていることが株主のためになっているかどうかをチェックしているわけです。
運営者 そもそも、取締役というのはそういう立場ですよね。ところが日本では執行役員のトップである社長が全取締役を任命しているところから、ヒラから社長までの利益共同ピラミッドができあがっている。経営=取締役(ボード・ディレクター)と執行役員(オフィサー)の分離なんて存在しません。
アメリカではどのようにして取締役会は、執行綜キ行役員(オフィサー)をチェックしているのですか。
手塚 ふつう取締役会というのは5~8人、社外取締役が3~4人くらいかな。で、四半期毎の取締役会を運営し、またその中でいくつかの委員会をつくって取締役会が執行役員とは独立に活動しているわけです。
監査委員会 =社内の監査担当者(オーディター)の人事権、指揮命令権を持ち、社内監査の監査を行う。問題がありそうなときには外部の弁護士事務所や会計事務所も使って独自の監査レポートを報告させる
報酬委員会 =オフィサー(=執行取締役)の給料や退職金をチェック、承認する
ノミネーション(指名)委員会 =オフィサーに空席が出来たときの後任の昇進や新規採用について、会社側からの候補者の提案を受け、面接を含めて議論し決定する。場合によっては拒否する権限も持つ
倫理委員会 =取引が公正であるか、法律遵守(コンプライアンス)や、社会的な公正にのっとっているかどうかを監視する。監査委員会が兼ねることもある
なんて感じでしょうか。 日本企業の監査役は、ある意味サラリーマンの一種で、経営者の影響下にあるけど、アメリカ企業だと社外取締役の配下にあるから、その会社から給料をもらいながらも社長の人事権を離れて、公正にチェックする仕組みがあるわけです。