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日本企業再生戦略 10


カリフォルニア・ワイン紀行

達成のための条件 これは世代間闘争だ

手塚 代表取締役名誉相談役

運営者 「会社人」から「社会人」へですな。

手塚  そうだね。字がひっくり返るだけなんだけれども、実はその二つの差というのはものすごく大きいのよ。

運営者 えらい違いですよね。
 じゃ、それで、前回までの5つの対策をやるために必要な条件というのは何でしょうか、我々が新たに身につけなければならない。

手塚  実は改革の論理というのはいっぱい、いろいろなところで議論されているのよ。経済同友会でもそういうものの報告をまとめているし、あるいは省庁改革なんていうところでもいろいろな答申が出されているし、いろいろな評論家がああすればいい、こうすればいいということを言っているんだけれども、結局、日本はなかなか変わっていない。
 さっきから言っているように、企業で人事制度なんかはやむにやまれぬ事情でもって少しずつ変えているんだけれども、しかしタイタニック号のエンジンを全く総取っかえするような意味での改革には進まず、まだ宴会をやっているわけですよ。舞踏会を。これは何でかということを考えると、やっぱりみんな、それをやると損をすると思っているんだね。
 なぜならば、これは今の日本の最大の問題だと思うんだけれども、すべての社会システム、企業のシステムが高度成長を前提に組まれている。組まれていることを当たり前だとみんなが思っているものだから、今よりも将来のほうがよくなるということを前提に人生を設計してきちゃっているわけですよ。それはそれぞれの世代、六十代でこれから定年するという人もそうだし、四十代で今、仕事盛りの人もそうだし、二十代でこれから会社に入ろうという人たちもそうなんですね。
 六十代の人たちにしてみると、もう若いころは自分はほんとうにただ残業をし、休日出勤し、身をすり減らして働いて、さてこれから自分は退職金と年金をもらって収穫期に入る。あるいは役員をやっていれば、自分は強烈な会社の中での出世競争に勝ってきて、その結果、今、自分は役員としてのもろもろのインセンティブ、車であり、秘書であり、個室というものをもらえているんだということなわけでしょう。
 そういう人たちというのはもう出すべきものはもう出しちゃったわけ。投資すべきものは投資して、今、回収期に入っているわけだね。ここでガラガラポンをやって、さっき言ったように、今出しているものに見合っただけの給料に変えましょうなんていう話をすると、あるいは退職金制度を廃止しましょうなんていう話をすると、この人たちは困っちゃうわけだ。
「そんなばかな。もう既に自分たちは出すものは出しているんだから、いただくものをいただくよ」という発想なわけだね
 四十代のサラリーマンも基本的にはそうですよ。自分たちはもう既に10年間、20年間、会社に出すものは出してきている。まだもらうものはたくさんもらっていない。しかしあと10年待てば、それが全部もらえるようになる。だから何とかこれをもらうようにしなきゃと思っているわけだ。
 こういう人たちが会社の意思決定の中枢にいたら、自分たちの前提としている将来のリターンを完全にほごにするような制度改革というのは行えないね。やっちゃうと損しちゃうんだから。泥棒に縄を結わせるというのは悪い例えだけれども、みずからの手足を拘束するようなことをみずから進んでやることはないでしょう。
 実はこの話というのは逆に若い人たちの立場に立ってみると、こういう人たちが成長がものすごく鈍化していて、もうからなくなっている会社の中で、過去に自分たちがやった成果として今出しているものよりもたくさんのもろもろのリターンをもらいたいといい、もらって行かれちゃったら、当然、若い人たちがあと10年待ったころには、会社の富というのは激減しているよね。

運営者 そうですな。

手塚  だって、成長しているときだったらいいんだけれども、彼らが10年たった後にいる会社はどうなっているか。今はどちらかというと伸びはとまっちゃっている。シュリンクしている、小さくなろうとしている。こういうときに、これからリタイヤしていく、あるいはこれから収穫期に入る人たちが全部取っていっちゃったら、自分たちに何も残らない。あるいは会社は将来に対して投資をするだけの資金余裕も残らない。そうすると、もう完全な縮小均衡のスパイラルに入っちゃうね。
 だから若い世代の人たちにしてみると、今、この場で投資にしても大幅に変更して、出しているものに対して入ってくるものが見合ったような形にするような改革をしてもらわないと。

運営者 世代によって考えていることが違う。呉越同舟というやつですな。




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