前提:メディアの意図のほうが、企業の意図よりもまし 日本ビデオニュース社長 神保哲生氏
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運営者 一気に下卑た話題になりますが。それでね、「取材に行きます」って申し込むと、「じゃあ、記事を見せてくれますよね」って言うでしょう。「いやー。そういうのは、見せてはいけないと思うんですけど」って言ってもわかってもらえない広報担当者の方がいらっしゃるんですけど、どーしたらいいんでしょう。
神保 事前にゲラ見せろっていうわけね。
運営者 そう。「ゲラを見せないと取材に応じない」という店頭公開企業があったりするんですけど。私としては、「そしたらじゃあ、取材はできないし、こちらで取材した材料で書くしかないですね」ということになっちゃう。後ろめたいことがなければ出てきて質問に答えるべきだし、社会的なプレゼンスの大きな企業ほどそうでしょう。そういう企業市民としての自覚が全くない。都合の悪い話は隠しておけばいいし、そう思ってなくてもメディアに露出すること自体を畏れている。
神保 やばいよね。
運営者 どうしたらいいでしょうねえ。
神保 ぼくが取材を申し込んだら、「インタビューのどこを使うかを事前に教えてくれることが前提だったら、役員を出席させる」っていう会社もあったね。
運営者 どこを使うか事前に教えてくれっていうのは、向こうの言い分もあってね。「テレビの場合は適当にカットして繋げて、自分の意図と反対のことや、発言の一部分だけを強調した素材を作ることが出きるから、嫌だ」っていうんですけどね。
神保 だったら取材を受けなきゃいいんだよ。つまり編集権が取材側にあるから、人々は企業の息の掛かったレポートではないということを前提に見るわけだよ。それは、「メディアの意図のほうが、まだしも企業の意図よりもいい」ことが前提になっているわけだ。広告じゃないわけだからさ。
運営者 見ている側(受け手)がメディアを信頼するかどうか、またメディアは信頼に足る記事を作っているかでしょう。その辺がまた、今の日本のメディアだとすごく頼りないと思いますよ。広告依存のテレビは基盤が脆弱だし、雑誌も情報誌みたいなのが増えてきて、記者は営業マンみたいに情報を取りにいってたりする。その数がまた多いものだから、広報担当者も勘違いしている人が少なくない。
メディアの側としては、客観、中立的な立場を取るように努力して、みんなに、「これが事実だ」っていう情報を知らせるのが本業なんですよ。そこのところ、勘違いしている人がメディア側にもあまりに多くなってしまった。厳密には、純粋客観が不可能であることは自明ですが、さりながら努力して客観的な情報を提供し、「さあ皆さんはご判断ください」ということなわけじゃないですか。
神保 企業の立場から、そうは見えないということもあるんだけど、もうちょっと大事なことはね、一つはレベルの低いじゃなくそのじつ、もう一つは、僕らは必ずしも、例えば「企業vs何とか」っていう対立軸の中だけで物を見ているわけじゃないわけ。
だから、企業にとっては、常にその立場からでしか物を見られないから、ある切り方をすると、たまたま企業にとっては若干不利になっているかも知れないね。
でも、こっちは「企業vs何とか」っていう対立軸で物を見る。……例えば、ある裁判のように、企業と環境団体というのがあって、それを、ただそういう対立の構図を扱うんだったら、確かにこの真ん中に対立軸をもってこないとフェアじゃないかもしれないけど、僕らは、別にその企業のマインドに拘束される必要はないわけ。もっと全然違う所に座標軸を見いだす可能性もあるわけだよ。
そのある座標軸、例えばもっと長い座標軸の場合に、たまたまその中の1プレイヤーに過ぎない三菱にとっては、それが自分にとって不都合な可能性が出てくるわけだよ。でも企業は、取材されることのリスクとかの中にそれを織り込まなきゃならない。
つまり、あらゆる点から考えて、三菱にとってもフェアであり、環境にとってみもフェアであるという軸、クジラにとってもフェアであり……「クジラは文句言わないから、クジラをアンフェアにしちゃえばいいや」って話にもならないわけだ、これは。それにメキシコにとってもフェアであり、運動してる人にとってもフェアであり、投資信託にとってもフェアでありみいな、その座標軸っていうのを、企業は必ず毎回出さなきゃいけないっていう問題なんだよ。
運営者 今までは日本企業は社員だけのものであって、社員の利益。まあせいぜい広げて株主の利益だけ考えていれば良かったわけだけど、社会全体がステイクホルダーと考えて、企業市民として全体利益を判断するところまで、自らを高めなければならないし、その視点を持たないと生き残っていけない、っていうふうになっているってことだと思うんだけど。