「考えること」を放棄した大企業社員たち
織田 聡氏
運営者 織田さんは大学を卒業されてからNKKに入社されて、たしか工場で原価計算をされていたんですよね。つまり大企業のビジネスもよくご存じである。
その後、三菱総研、留学を経て外資系コンサルティング会社であるATカーニーで大企業に対する戦略立案などをやられて、現在はeビジネスのスタートアップ企業の執行役員をされておられるということです。
ベンチャービジネスのスピードの速さも体感されていると思います。そういう中から何が見えてきますでしょうか。
織田 いまの会社は20人くらいの小所帯です。
提携のために大企業の方々と協議することが多いのですが、つくづく感じることは、「大企業の人たちは自分で考えることを放棄しているなあ」と思うんです。自分一人で何かを決めるという能力が知らず知らずの間に失われてしまっているのではないでしょうか。
自分で何かを決めるということは、きりきりと胃が痛くなるような経験ですよ。その痛みを経験しないと、判断力は養えないのです。だけど大企業にいる人は、だれか上の人に相談すればその痛みを感じずに済んでしまう。その話を持ち掛けられた課長や部長も、結局「上に聞いてみよっと」、あるいは関係部署に聞いてみて、「ダメだった」という返事を持ち帰ってくる。それで問題を処理したつもりになっているわけです。しかし「処理」ではあっても「解決」したわけではない。
運営者 大企業では、そういうやり方で物事が先に進むものなのでしょうか。
織田 僕も、今までこれでよくやってきたなと不思議に思います。
それは、「業界」というものがあったからではないでしょうかねぇ。業界という、一種暗黙の秩序維持組織、秩序維持空間というのがあったから、ビジネスとして成り立ってきたのでは。
運営者 その仕事の中では個人の能力は関係ないわけですね。ビジネスの仕組み自体さえできあがっていれば。今までちゃんと価値が再生産されてきたんですか。
織田 それはそれなりに再生産されていたんだと思います。だけど、そういう組織の中からは、社員の半分が反対するような新しい試みは出てくるはずがありません。
運営者 それどころか、まったく新しいことはできそうにないですね。