運営者 今日伺いたいお話は、建築物についてのお話しです。ぼくらは毎日建築物の中にいるわけですが、やはり建築を意識するのは外国に遊びに行った時に文化として何百年も残っている建築を見ることで、「ここの人たちはこういう感じだったのか」と、何となく在りし日を偲ぶよすがにするということが多いと思います。
だけど僕自身は、建築をどのように設計するのか知らないんです。叩き大工の仕事であれば何となく理解できますが、後の世代に残るような大きな建築物はどのように設計されているのかについて、まず教えてほしいんです。
田中 そうですね、具体的に話したいと思います。例えばオフィスビルなどの大きな建築をつくるときには、まず施主や発注者が求める与条件を詰めていくことを考えます。どのようなレベルのものを設定しているか、土地の形状はどうなっているか、場所は駅に近いのかとか、どのような道に接しているのか?方角は?などいろいろあります。
そうした条件の塊が建築家にたくさん示されます。その中で建物をしっかりと実現していくというのが私達の仕事の役割のひとつなんです。しかしながらその条件の中でたとえば西向きに、執務空間をおかなければならない場合は、「環境上よくない」場合もあります。
運営者 西日が差し込んでくるからですね。
田中 そうです。劣環境なのですが、「西向きにビューを見せることで家賃を稼ぎたい」というケースもあります。そのためには窓を2重にしたり2重窓の中に空気を通したりして、熱付加環境を良くするといった解決策があります。
これは一例でそれ以外のたくさんのファクターがあります。建築家は40歳くらいだとまだ若手で、60歳、70歳にならないと大成しないといわれるのですが、建築に求められる与条件を実現した先に、建築家のクリエイティビティがやっと発揮されます
「与条件を満たす」というのはその手前のところですが、極めて重要なことです。ここの訓練ができていないと建築は設計できません。
運営者 与条件をクリアする建築物を設計するためには、何が一番大切なことなんですか?
田中 デザインを含めた解決能力が必要です。しかし、いちいちゼロからイチを作り出していかなければならないわけではありません。「イチから2を作り出す」という作業を連続して行って、そういう演繹的なことを繰り返していくとなんとなく建築物の型が見えてくると思います。それを最終的に絵に描いていくという作業です。
運営者 なるほど、与条件をどのように解決するかをまず考えるにしても、そこからできあがる建築物までの間には、まだ開きがあるわけですね。
田中 そこにはジャンプがありますよ。そこに建築家個人の能力が発揮されるかもしれないし、そのジャンプを許さないという施主もいるかもしれません。
それから与条件のひとつとして法律もあります。もちろん法律は所与のものであり、変えることはできません。だけど施主の要求する与条件は変えてくれる可能性もありますよね。