運営者 おっしゃってることはよくわかりますが、世の中に今あるもので意味のないものというのはあまりないわけで、今あるモノはあるべくしてあるわけですから。逆に言うと無駄なものは残らないわけで、型というのは有用のものがだんだん洗練されてきたものだと思います。ただし、常に改善するための揺らぎというのは必要なわけで、そこは一生懸命みんなが掘っていくべきところだと思うんですけど。
つまり設計するときには、基本的には型があって、それを援用していけば、建築物を構想するとっかかりはできるということですね。
でもそれって飛行場や。公共ホールにも型があるんですか
田中 あるんですけど、オフィスビルに比べればもっと緩いんです。
今わたしはホールの設計に携わっていますが、型が緩いのである程度自由が効きます。客席までの距離が何メートル必要とか、決まってることはあるのですが、ホワイエやカフェをどうするかといったことは自由度が高いと思います。
公共建築は、投資に対するリターンをそこまで厳しく考える必要はありませんから。空港の場合はターミナルの建物の長さを多少変えたとしても、空港の収入とはあまり関係ないですよね。飛行機の着陸料に影響するものではありません。
運営者 田中さんは、どの部分まで設計担当されてるんですか?
田中 もちろん一体パッケージとして設計するのですが、設計部門は3つに分かれていて、私のいる計画意匠担当、構造担当(構造検討・構造計算)、設備担当があります。これらがチームとして活動していて、最後に総合的にまとめるのが私のところなんです。
運営者 構造の人は、構造計算をやってるんですよね?
田中 どこに柱を置くかというのも、もちろん一つの型はあるのですが、インスピレーションがとても大切な仕事です。建物の形状が特殊なときにはいろいろ考えなければならないし、経験がものをいいます。
柱がない方が使いやすいのは当たり前なのですが、柱を外しても大丈夫かどうかというのは、経験に基づいた直感の部分が少なくありません。そうやって考えたフレームをコンピューター上に組んで回してみて、「もっと梁を太くしよう」などというふうに再度考えたりします。
運営者 そうやって必要な強度を確保するわけですね。
高層ビルの建築現場を見ていると、街中は土地がないですから、建築資材を一階部分に置いたままで柱だけでビルを支えているのが分かるじゃないですか。ぼくら素人は壁でビルの重みを支えているということ自体に驚きを感じます。
田中 実際は今の建築物は、ほとんどフレーム形式で柱と梁でビルの重さを支えていますから、壁はあまり関係ないです