田中 例えば土地の形状に従って、建物の平面形も自ずと定まってきます。そして平面形が決まれば容積率に従って、ファサード(正面)もだいたい決まってきます。そうすると、縦強調にするか、横強調にするかが決まってきます。
そこからビルの商品価値を高めるためには、より凝ったデザインをしていくことがあります。それは意志を持った特殊な建築なんです。中国の国営放送の入っているCCTVビルってありますよね。事務所ビルの一種ではあるのですが、あれは国家を表している意志を持った建築物です。
運営者 そうですね、CCTVビルは空港建築なんかに近い国家示威ビルです。でも僕が聞きたいのは、例えば大同生命の貸しビルってかなり面白いと思うんです。大同生命は資産運用のために各地に貸しビルを持っているわけですが、どれもデザインがなかなか面白い。
それで入居者が集まってくれれば、資産が回転するわけですから元が取れるじゃないですか。
田中 それはやはりある種意志を持った建築物なのでは。
運営者 どん欲にリターンのみを求めるのではなくて、町並みに対する貢献とか文化的な貢献を示すという姿勢なのかもしれないですね。
田中 必ずしも、何としてもリターンのみを追求している人ばかりではないんです。
運営者 ですから地積を考えて、そこから得られるリターンを最大化するように合理的に考えると、現在の技術水準や建築素材を使用すれば、必然的にこのような形に収まるという「型」は存在するということなんでしょう。
田中 それは絶対的な均衡ではなくて、多少の緩やかな部分があります。また、建築コストは同じでも、非常によい建築をつくる建築家もいれば、あまりよくないものを作ってしまう人もいるんです(笑)。
運営者 (笑) そこの分かれ目って何なんでしょうか?
田中 それは建築家の能力ということでしょうね。運と言ってしまえば、とてもつまらないですし。
運営者 施主からすれば運なんですが(笑)。
田中 施主がそれをコントロールしたいと思ったらいい建築家を選ぶ必要があります。
運営者 なかなかそれは、お金が許さない(笑)。
田中 それは設計料という観点ではなくて。設計料が建築の総コストに占める割合は、しょせん数%なんです。だけど設計料を増やした分の価値は、建築物の価値を何倍にも高めます。
ただし設計者によっては、建物の総コストは1.5倍になってしまうこともあります。CCTVビルなんか、数倍以上になっているのではないでしょうか。それを施主が認めることができるかどうかです。
また、建築総コストが1.1倍であったとしても、建物の価値を何倍にも高めることができる建築家はすばらしい建築家ということができるでしょう。
運営者 まったくですねえ。望ましいことです。
田中 それができる建築家と、そうでない建築家がいるのは事実です。