田中 それから六本木ヒルズは、僕が前にいた事務所が設計したのですが、あれは個人的には好きです。
運営者 なにが評価できるんです?
田中 誤解を恐れずに言えばある意味、一から町をつくったという点は面白いと思います。
運営者 だけどう使う方としては、あんな使い勝手の悪い町はないですよ。定期的にテレビ朝日に会議に行っていたのですが、いつまでたっても迷ってましたね。
田中 そういう話も聞きます。だけど迷わない垂直な街をつくるのは簡単なんです。それに対する反省というのがあって・・・
運営者 それに対してラビリンスにするとか、テーマパークを作るとかいう意図があるのはよく分かるんです。それは街に何を期待しているかによって違うわけで、僕は単にオフィスに行っているわけだから。
それにスカイラインについても、変だと思うんですよ。
田中 それは六本木ヒルズ森タワーの場合、ワンフロアの面積が5000平米以上ありますから、巨大な建築なんです。普通は2000〜3500平米ですからね。エレベーターのあるコア部分も非常に大きくなってしまいます。
運営者 多分日本最大級のオフィスビルでしょう。
田中 それを前提として外観に分節的なデザインを加えたりしています。この点についてはいろいろと議論があるようです。
運営者 別に中にいる人がそれでハッピーであれば問題はないと思うんだけれど、エレベーターで目的階に行くだけでも外来者はストレスを感じてしまいます。僕はあそこに行くのはすごくイヤなんです、今月も行ったんだけど。エレベーターに乗り間違えるし、天井は低くないんだけれどもビル自体が大きいので圧迫感があります。
田中 あれだけの大きさになると、人間の感覚を超えているというところがあるかもしれません。エレベーターも2階建てにしないと、エレベーターのバンク数が増えてしまう。
ああいう総合開発の場合はオフィス部分で収益を出さないと、その他の部分をカバーすることができないんです。
運営者 ですから必然的にそのような巨大ビルになってしまうのかもしれませんね。
田中 建築は、建設を行っている間は施主のものなのですが、出来上がったらある意味社会のものになります。
運営者 公共建築だけではなくて、あらゆる建築がそうなんですね。
田中 だからデザインが問題になるんです。「自分の敷地内に作る建築なんだから美しくても醜くても関係ないだろう」と思っていても、使い始めたらいろんな人から指摘を受けることになります。