運営者 たとえ低コストで建築しなければならない、ヨーカ堂やイオンのショッピングセンターであったとしてもですよ、そこに来る年間何百万人という人が、その空間を見るわけですから、恐ろしいことですよ。その空間を見て感覚を函養しつつ子供が育ってくるわけです。
逆に僕らは、外国に行って昔の建築物に入ってみて、「ああここの人たちは優れた文化を持っていたんだな」ということを感じ取ることができます。それによって文化が伝わってくるというとても楽しい体験ができるわけです。われわれはそれによって自分の感覚を磨くこともできます。だから建築家のみなさんにはそこの部分も意識してもらって、そういう建築を今後日本でも増やして欲しいなと思うんですよ。
田中 建築はそういう社会的なものですから、単なる技術ではありません。ですから大学における専門教育に任せておいていいものではないと思うんです。
もっと小さいころから、世の中にはどのような建築物があって、例えば城郭建築もあれば、神社もあれば、ホテルもあるなど、また昔はこういう建築でしたが、戦後はこのような建築ができました。海外ではこのような建築があって、日本の様式の変遷などをみんなに教えるべきではないでしょうか。
建築は、すべて理由があってそうできているわけです。どの学校でも美術や技術の授業があるわけですから、建築の基礎的なことを教える授業があってもおかしくないと思うんです。
運営者 確かに、なぜ建築の授業はないんでしょうか。言われてみれば不思議ですね。
田中 例えば普通の人は、アートをあまり買わないですよ。美術館にも行かないですよ。
だけど建築物は毎日利用するじゃないですか。また家は自分で建てたり買ったりもします。家は一生で一番高い買い物ですよ。なのになぜ美術の授業はあるのに、建築の授業はないんでしょうか?
運営者 ごもっともですね。では、日本でもし建築の授業をするとするなら、田中さんだったらどの建物を取り上げるべきだと思いますか 何を見せれば気づきのきっかけが得られますかね?
田中 やっぱり桂離宮とか・・・(笑)
運営者 桂離宮は小学生には見せられません!(笑)、いきなりそんな一番レベルの高いところから言われても・・・
田中 じゃあ、たとえば姫路城と名古屋城を比べてみて、どちらがどうかとか。
同じ城でもいろいろ違いが分かるはずです。
運営者 なるほど、そういうことですか。でも姫路城はいま修理中で見れないじゃないですか(笑)。