運営者 アウトプレイスメント会社というのがあって、そこのカウンセラーは、企業がリストラしたい人、第二の人生を考えてもらうきっかけを与えるのですが、彼らは企業からカネをもらって、「この人をどこか第二の就職先に当てはめよう」とするわけです。その当てはめる過程として、どのような仕事をしてきて、どの仕事をしているときに一番輝いていたかを振り返らせて、「あなたが得意なのはこういう傾向のことだから、次はこの仕事をやりましょうよ」と誘導するわけなんですが、それはやっちゃいけないわけですね。
小西 そうですねー、それはケース・バイ・ケースでしょうが、スピリチュアルケアではやらないですね。スピリチュアルケアとよく対比されるのは心理療法ですが、心理療法で見られる方法論の一つとして、その人がふだんの精神生活を阻害するビリーフを発見して、それをいわば「よいビリーフ」に書き換えることによって修正しようとするものがあります。
運営者 そこにはすでに、価値観の押しつけがありますよね。「よいビリーフって何なんですか」と?
小西 その意味でその心理療法は「客観的にこのようなビリーフがよいビリーフであろう」というのを設定している面があるとも言えるわけです。たとえば認知療法では「認知のゆがみ」を直すという言い方もありますね。
運営者 宗教をベースにしていたらあり得る考え方なのかな。宗教なら価値観がありますから。
小西 特定の宗教的価値観、世界観に基づいたケアは「宗教的ケア」と呼ばれていて、そこでは「どうあるべきか」というビリーフが前提となっているとも言えます。それと構造的には近い面があるかもしれません。スピリチュアルケアでは、その人のビリーフを、自身の生き方の選択の一部として、その人自身に見出してもらうことが大切だと考えられています。
運営者 なるほど。そうしましたらですね、さらにチャプレンの仕事について理解するために、小西さんがどのようにしてチャプレンになられたのか、アメリカの病院に飛びこまれたころのことから振り返ってお話しいただければと。
小西 チャプレンの教育を受けたのは、カリフォルニア州のバークレー近くにあるアルタベイツ・サミット・メディカルセンターという総合病院です。
そのCPE、Clinical Pastoral Educationというプログラムでは、「チャプレン・レジデント」という肩書で、午前9時から午後2時まで、病棟で実際に患者さんに心のケアをして、その後夕方5時まで、スーパーバイザーを介して学生6人がグループワークを行うといったことを1年間、週5日間毎日やっていました。
運営者 「すごい」としか言いようがないプログラムですねー。
病棟で自分がやったことを、学生同士で共有するわけですから、掘り下げようと思えばいくらでも掘り下げられますよね。結構恐ろしい教育方法のような気もしますが。