"エグゼクティブ・サーチ”という仕事 1
小峰 尚
運営者 いよいよ大企業も足下がぐらついてきて、本格転職時代に入ってきましたね。「独立」と「転職」は違うという厳しい話もありますが、それはおいておいて、小峰さんには、「会社の外で通用する人材」とはどんな人材なのかについてうかがいたいのですが、その前にこの仕事がなんなのかまずご説明をお願いしたほうがいいですね。
ヘッドハンターじゃないんですよね。"エグゼクティブ・サーチ"。
小峰 エグゼクティブ・サーチ。エグゼクティブ・リクルーター。
運営者 儲かりまっか?
小峰 やっぱり「今の日本は買いだ」という外資系企業は、一昨年より去年の方が増えている。だから当社は人手が足りないんで、営業すればいくらでも仕事はあると。だから今、うちでリクルーターを2、3人取りたいって広告出したりして一生懸命やっているけど、なかなかいい人が見つからなくて決まりません。
運営者 だって、この仕事の能力っていうのは、半端じゃないと思いますよ、僕。
小峰 誰にでも出来るということじゃないですよね。
運営者 ではリクルーターとして、この仕事に必要なコンピテンシーは何ですか。
小峰 やっぱり"説得力"ですね。というのは、そこに人がいることはわかるわけですよ、リーサーチャーが調べて、そこへ乗り込んで行って、トントンとノックして、こっちらに振り向かせ、「一緒に手を繋いでこの川を渡りましょう」とお誘いするわけです。
運営者 小峰さんいいな。そういうのが合ってますよ。絶対いいですよ、それ。
小峰 まず人に警戒感を抱かせないルックスも必要だろうし(笑)、雰囲気も必要だろうし。あとは、多少むずかる赤ん坊でも「ついて来い」って……。
運営者 なだめすかして。
小峰 そう。で、連れていっちゃう。そういう押しの強さもやっぱり必要なんです。最初から押し出しばっかりだと警戒されて逃げちゃう人もいるわけですし。だから、その辺の微妙なバランスというか、変幻自在なところ。
運営者 絶対僕じゃ無理だな。押ししかないんだもの(笑)。
小峰 そういうのがバランスよく出来る人っていうのは、やっぱりあまりいないかも知れないね。アグレッシブさだけじゃ駄目だし。
運営者 あと僕思うんですけど、相手も海千山千なわけじゃないですか。だから、「ああ、こうやって騙してクライアントに会わせようとしてるんだな」、みたいなことはわかるわけですよ。「でもまあ、こいつになら騙されてやろう」というふうな世界まで行ければ、かなりステージの高いところでやってる騙し合いなんだけど、リクルーターの方がレベルが低いこと言ってると、「ああ、こいつ駄目だ」と思われちゃうじゃないですか。
小峰 それはありますよね。やっぱり僕だって、50歳以上の人のサーチの時は、あんまり得意じゃないんです、正直言って。人生経験が上の人から見たら、「この駆け出しが」っていう感じになっちゃうんですよね。
運営者 だから、結局人と話すことっていうのは、その人の持っているものと、自分の持っているものとのある種の交換なんですよ。単純な言葉のやりとりじゃなくて、自分の経験とか、知識とか、ノウハウとか、そういうものを交換し合ってるわけじゃないですか。そうすると、そこのところでちょっと素性が剥がれちゃうと厳しいですよね。「こいつの話に乗っかって、転職するのはどうか」って思われちゃう。人生の賭けをやってるわけですから。
小峰 そこはだから真剣勝負。
運営者 真剣勝負の出来ないようなレベルの人だったら、やっぱりちょっと駄目だろうなと。