なぜ山口百恵は中国人にとっての美の基準なのか
エコノミスト
田代秀敏氏
田代 「サインはV」はよくわからないんですが、赤いシリーズはよくわかります。
特にあのドラマは、中国人を理解するにはとても大事です。コン・リーって、「さらば、わが愛/覇王別姫」とか「紅いコーリャン」に出ている、中国を代表する国際女優がいますよね。カンヌ映画祭の審査員までやってます。
運営者 すごいなそれは。カンヌ映画祭の見識を疑いますが。
田代 あの大女優がテレビで話していたのですが、「なぜあなたは女優になったのか」と聞かれて、「小さいときから、どの村人からも「お前は山口百恵にそっくりだ」と言われたので、自分は美しいのだとわかり女優になりました」と答えていました。つまり中国人にとって、「山口百恵=女性美の基準」なんです。
今、日本人はどうですか。山口百恵さんのこと覚えてますか?
運営者 若い人は全く知らないでしょうね。
田代 私も「赤いシリーズ」は見たような見ていないような、という感じなのですが。
運営者 だって、全部同じなんだもん。
田代 そうですね。中国での吹き替え版には、精密なスーパー・インポーズで中国語のセリフが入ります。どう訳しているのかがおもしろくって、ずっと見ていて、どんなドラマか分かりました。
おっしゃるとおり、全部ストーリーは同じです。とても可憐な美少女がいました。だけど不幸な事故で不治の病にかかります。毎週次第に病状が進行し、最終回で亡くなります。ああ悲しい。
ところで、岡本さん、最終回の臨終の場面、覚えてますか?
運営者 いやー、とても。というか、恐らく見たことはないと思います。
田代 わたしは中国語吹き替え版で見たばかりなので印象が鮮明です。最終回に、臨終の床で山口百恵さん扮する主人公の美少女は、宇津井健さん扮するお父さんの手に手を伸ばして、「お父さんありがとう、自分の仕事も投げ打って、こんなに献身的に看病してくれて」と言います。
そして、次に、三浦友和さん扮する恋人になんて言うか。そこで彼女は恋人の手を取らないんです。じっと恋人を見て、「いい人を見つけてね」と言い残して、彼女は自分の運命を受け容れて死んでいくんです。
運営者 とっても日本的じゃないですか。
田代 それを見て中国人の男たちは、みんな泣いてしまいます。
運営者 不思議ですなあ。そんなに感動するのか。日本的な情緒が分かってるじゃないですか。
田代 中国の男たちにすれば、「これが感動せずにおられようか」と思うものがあるんですよ。
中国の男たちが異口同音に言うのですが、中国人の女性が山口百恵さん扮する主人公の立場なら、「なぜこんなに若く美しい私が病み果て死んでいくのに、周りの俗人どもは、のうのうとのさばって生きていくのか」と思って、天を呪い、地を呪い、親を呪い、最後に恋人の手に爪を立て、ぎりぎりと皮膚を引き裂きながら、「私が死んだ後、どんな女でも1秒以上見つめたら、あなたはその目から腐りはてていくんだよ」と言いながら死んでいくに違いない。絶対にそうだと。
それに比べて、山口百恵はあんなに美しく可憐なのに、恋人に「いい人を見つけてね」と言って死んでいく。これは泣かせるなあと言って、泣いているわけです。
運営者 なんとも言葉もない話ですが・・・。