1.マリインスキー劇場公演(2010年2月12日~20日)
オペラ公演《影のない女》と《トゥーランドット》のほかに、最近になって演奏会形式による《トロイアの人々》と《パルジファル》の公演も追加されることが発表されました。
ワレリー・ゲルギエフが本拠地の手兵を引きつれての来日公演は、これまでも期待に違わぬハイレベルの演奏を聴かせてくれたものですが、今回はロシアものを敢えて外したばかりでなく、リヒャルト・シュトラウス、プッチーニ、ベルリオーズ、ヴァーグナーというある意味では支離滅裂なラインナップをひとりで指揮してしまおう、というあまりにも野心的なプログラムです。支離滅裂と申し上げましたが、共通項は色彩豊かな凝ったオーケストレーションによる大作ばかりであること。ゲルギエフ・ファンにはたまらないプログラムかもしれません。まちがいなく現役指揮者の中でも最高峰のひとりであるゲルギエフの真髄を1週間の間に堪能しきることができるわけです。ただし、上演時間が3時間未満であるのは《トゥーランドット》のみ。いくらタフなゲルギエフでも集中力が持つのか、ちょっと心配にはなります。
私的には、なんといってもマリア・グレギーナが題名役を歌う《トゥーランドット》がおすすめですが、上演機会がきわめて限られるベルリオーズの傑作《トロイアの人々》も聴いてみたいと思っております。
2.フィレンツェ歌劇場公演(2010年3月13日~21日)
《トスカ》と《運命の力》をズビン・メータの指揮で。
《運命の力》の歌手陣は、レオノーラ:アマリリ・ニッツァ、アルヴァーロ:ワルター・フラッカーロ、ドン・カルロ:ロベルト・フロンターリ、グァルディアーノ:ロベルト・スカンディウッツィと一流どころが並んでおり、本格的なハイレベルの演奏が期待できます。
《トスカ》の方も、カヴァラドッシをやるマルコ・ベルティは、かなり期待できる若手テノールですし、ライモンディ、スーリアンというベテランバス歌手がスカルピアを競演するのも楽しみです。
3.メトロポリタン歌劇場公演(2010年6月4日~19日)
《ボエーム》、《ドン・カルロ》、《ランメルモールのルチア》の3公演。指揮はジェームズ・レヴァインとジャナンドレア・ノゼダ。
なんといっても、《ドン・カルロ》の配役が豪華で、09年のスカラ来日公演のキャストよりもずっと素晴らしいものです。ディミートリ・フヴォロストフスキーのロドリーゴと、オリガ・ボロディナのエーボリは、現在この役をやらせたら最高と思われるふたりですし、現在売り出し中のイケメンテノール、ヨナス・カウフマンが題名役を歌うのも楽しみ。エリザベッタのバルバラ・フリットリ、フィリッポのルネ・パーペも超一流の歌手です。
《ボエーム》の目玉は、ソプラノのアンア・ネトレプコと、ゼッフィレッリの演出。人気絶頂のネトレプコの生の声は一度聴いてみる価値があります。ゼッフィレッリの名舞台は、2度にわたるスカラ来日公演で既に日本のファンにはお馴染みですが、まだ観たことがない人にはこれも一見の価値があります。この傑作舞台が観られるのもこれが最後の機会かもしれません。
《ルチア》もメアリ・ジマーマンの新演出は一度観る価値があるものですし、主役を歌う現在売り出し中のドイツのコロラトゥーラ・ソプラノ、ディアーナ・ダムラウの演奏も是非一度ナマで聴いてみたいものです。エドガルド(とロドルフォも)を歌うテノール、ピョートル・ベチャワとライモンドを歌うバスのイルダル・アブドラザーコフも注目です。DVD化されているこのプロダクションでは、有名な狂乱のシーンの伴奏にフルートとともにグラスハーモニカ(グラスのふちを指でこすって音を出すあれです)が使われていました。来日公演でも同じ楽器が使われるとしたら、これも聴きどころです。
ということで、2011年の来日公演の中でも、とりわけこのMET公演は、とりわけ、おすすめの点が多い公演といえましょう。
4.ボローニャ歌劇場公演(2011年9月13日~25日)
《カルメン》、《清教徒》、《エルナーニ》をミケーレ・マリオッティとレナート・パルンボの指揮で。
目玉はなんといっても《清教徒》。ファンディエコ・フローレスがテノール殺しの超高音(Fおよび2回のDes)をどう歌うのか。敵役バリトンのアルベルト・ガザーレもイケメンのうえに実力派です。ヒロインのデジレ・ランカトーレも若手の中では実力派といってよく、ハイレベルの舞台が期待できます。
《エルナーニ》の歌手陣もなかなか強力です。ソプラノのディミトラ・テオドッシュウが一番のはまり役ですが、テノールのサルバトーレ・リチトラ、バリトンのロベルト・フロンターリ、バスのフェルッチ・フルラネットもヴェルディを歌うのに不足ない声を持った歌手たちです。指揮のパルンボはいい時とたいしたことない時があるので当たるも八卦ではありますが、ヴェルディ初期の傑作ながら上演機会はあまり多くない(ヴェルディ・フリークの私もまだナマ公演を観たことがない)作品なので、是非この機会に聴いていただきたいものです。
《カルメン》は、イケメンで力強い声も備えたドン・ホセにぴったりのヨナス・カウフマンが期待できます。彼は、そのまま日本に残って、次のバイエルンでも歌いますから、きっとたくさんの日本の女性ファンを獲得することになるでしょう。
5.バイエルン国立歌劇場公演(2011年9月23日~10月10日)
音楽監督ケント・ナガノ自身の指揮による《ローエングリン》が、このハウスとしては一番の目玉というべきなのでしょう。ここでも、題名役を歌うヨナス・カウフマンのかっこよさに注目です。オルトルートを歌うワルトラウト・マイヤーも良い歌手です。エルザのエミリー・マギーという人は、私はよく知りません。
《ナクソス島のアリアドネ》もナガノの指揮。私好みの作品ではないうえ、ソリストとしてあがっている歌手も知らない人たちばかりなので、私的にはオススメできません。
《ロベルト・デヴェリュー》は、「ベル・カント女王」グルベローヴァが、得意とするドニゼッティの「女王三部作」のひとつを歌う、という点で注目。共演のソリストもソニア・ガナッシ、ホセ・ブロスと実力派がそろっています。問題は、女王の亭主フリードリヒ・ハイダーの指揮。私は、昔サザーランドの亭主リチャード・ボニングの指揮がベル・カントに合っているとは思えなかったのと同じように、ハイダー君の資質もベル・カント・オペラ向きではない、と感じています。グルベローヴァも年齢的な衰えは隠せない可能性があります。永年の彼女のファンとしては、是非応援に行きたいと思っておりますが、皆様におすすめできるかどうかは微妙な心境といわざるを得ません。