運営者 なるほどねー。
ライブビューイングはハイビジョンであることが最大の成功要因だと、ぼくは思うんです。でも人物がアップになるので、カツラとか大変なんでしょうね。
池原 カツラは生え際が自然に見えないといけないし、メイクもかなり苦労しているみたいです。「特にハゲのカツラが難しい」と言ってました。
劇場でオペラグラスで一生懸命見ても、あそこまで見えませんからね。
運営者 そういうのまで動員して、世界中にMETの舞台を放送しちゃうんですから、鬼に金棒ですねえ。
池原 けっこう最近は、ヨーロッパのオペラハウスでもライブビューイングをやってて、スカラ座やコベントガーデンの舞台もアメリカの映画館に中継されて見られるようになってますよ。それをまたDVDにして売るので二度おいしいのですが。
実際にアメリカやヨーロッパまで行く手間を考えれば、手軽にオペラを見る手段としてライブビューイングはお勧めです。そして興味を持てば、自分の都合のいいときに実際に足を運んでの舞台を生で見ればいいわけで。
運営者 池原さんは、どのくらいMETに行かれてるんですか?
池原 最近は、シーズン中は20本以上は見ています。
運営者 ということは、ほとんどのプロダクションは見ているということですね。
池原 新プロダクションは必ず見ます。それからお気に入りの歌手の公演は見に行きます。
そしてそれをまたライブビューイングで比較してみると、生で見ていて見落としていたことに気づいたり、映画館で見るのと生で見る違いを探すのも面白いですよ。
運営者 この本の中では、池原さんは自分のお気に入りの歌手についての表現を、ことさらに抑えているのですが、池原さんが今注目している歌手はどのあたりなのかは少しお話ししておいていただいた方がいいかもしれません。
池原 一番のお勧めは、ヨナス・カウフマン。テナーの中ではいち押しです。それからデビューのころから注目していたのがディミトリー・ホロストフスキー。《エフゲニー・オネーギン》は絶品です。それから最近はバスバリトンについては、声がみんな軽くなっているので、ベルカントコロラトーラもできて、深みのある声で歌えるサミュエル・レイミーさまの後の人を探しています。
運営者 なるほど、METのシステムであれば。いい人をどんどん発掘できそうですね。
そういうわけで今日は取材の裏話を伺ったのですが、この本は資料的な価値もあるし、とにかく包括的にMETの裏側がわかる面白い本ですよ。
池原 オペラハウスがどのようにして運営されているのか、オペラはどのようにして上演までたどり着いているのかについて多少関心がある方であれば、楽しんでいただけると思います。
それと、新しい総裁になってからのMETの方向性について、全体的にご紹介することができたと思います。ご関心のある方はぜひご覧ください。