武田 ところで加藤さんが書いておられましたけど、ワーグナーはヴェルディの「レクイエム」を聞いたはずなのに、なぜまったく感想を書き残してないんでしょうか。あれを「すごい」と思わないのかと。
運営者 たしかどこかで聞いてるんですよね。
武田 それについて何も言わないのは、ワーグナーの狭量なところだと思う。レクイエムは「これはすごい作品だ」と思ったけど、くやしいから何も言わなかったに違いない。
加藤 そうそう。ヴェルレクを評価しないのはおかしい。ブラームスですら評価してるのに。
手塚 素直に評論していないのは事実のようです。
片山 成り上がった田舎者にありがちなことですよ。
武田 ヴェルディのほうには余裕があったのにね。
手塚 まああえて言えば、ヴェルディの「レクイエム」のオーケストレーションは、かなりワーグナーの影響を受けた後のものであると私は思います。
武田 だったらワーグナーはそう白状すればいいじゃない。
手塚 いやあ、それは自分では言いませんよ(笑)。
ワーグナーが「レクイエム」を聞いて「くやしい」と思ったかどうかはわからないけれど、ワーグナーは後期の楽劇である「マイスタージンガー」と「神々の黄昏」と「パルシファル」では合唱をたくさん効果的に使っています。これは多分、ヴェルディに対する・・・
武田 「俺だって、できるんだぞ」ということでしょう。
手塚 それまで楽劇を書き始めてから後、「指輪」や「トリスタン」の中では合唱はほとんど出てこないでしょ。だけど。「パルシファル」では合唱を使うことによって神の世界の雰囲気を表現しようとしている。合唱の使い方は、ヴェルディは圧倒的にうまいですから。
運営者 ワーグナーは、ヴェルディから学んだ可能性があるということですか。
手塚 わかりませんけどね。
加藤 自分では絶対言わないけどね。だけどヴェルディも、「ワーグナーから学んだ」とは言いませんよ。
だけどヴェルディはワーグナーをとっても意識してたんです。
武田 そしてヴェルディは、そのことを隠してないわけですよ。
手塚 ワーグナーはやっぱり自意識が強かったからね。
加藤 実はヴェルディはもっと早くからワーグナーの影響を受けていた可能性があって、さっきの「ローエングリン」の話だけど、ヴェルディ研究所の所長さんをずっとやっていたピエール・ルイージ・ペトロベッリさんの話によると、「椿姫」の前奏曲は「ローエングリン」の影響を受けている可能性があると言ってました。
しかしそれについてはヴェルディは何も語っていません。
運営者 じゃあヴェルディだって隠してたっことじゃないですか(笑)。
武田 いや、その程度のことは、ヴェルディはワーグナーに教えられなくても思いついていましたよ。
ただ、ヴェルディも、自分を尊敬していた指揮者のマリアーニが「ローエングリン」のイタリア初演をしたのを絶対に許さなかったようだから、ワーグナーをライバルとして意識してたことは確かですね。マリアーニ君は、自分の彼女だったテレーサ・シュトルツをヴェルディにとられたのを恨んで、わざと先生のいやがることをしたという見方もある。そのボローニャでの「ローエングリン」公演をヴェルディはわざわざ聴きに行ってます。「椿姫」初演よりずっと後の話ですがね。
運営者 えーみなさん、オペラを巡る暴言の数々、たいへんありがとうございました。
ヴェルディ&ワーグナー生誕200年が実り多い年になるよう期待を込めて、なによりファン同士の乱闘などなく、無事に終わるように祈念しつつ、今回のオペラ座談は打ち止めにしたいと思います。ではまた~
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