フランス編 オペラ座
手塚 代表取締役名誉相談役
さて、96年8月22日、木曜日。昼間の仕事を終えて午後早めに帰宅し、4時にタクシーを呼んで家族とともにダレス国際空港へと向かう。午後7時10分発のエールフランス23便でパリに飛ぶためである。
夏休みの旅行シーズンとあって、満席である。しかしエールフランスは、さすがにフランスのキャリアだけあって普段利用しているユナイテッドの大西洋便と比べると機内食もかなりましで、エコノミークラスでもワインが結構イケる。約7時間のフライトでパリ・シャルルドゴール空港のエアロガル2(第2ターミナル)に到着した。パリ時間で23日金曜の朝8時45分である。
空港からパリ市内へはタクシーで約45分。オペラ座近くのラフィエット通りに面した小ぢんまりとしたホテル、Lafyetteに10時半過ぎにチェックインする。ミシュランのガイドブックで、中級ホテルで足の弁が良く、1泊149ドルとリーズナブルだったのでここにしたのだが、なかなかこぎれいで気持ちの良いアットホームなホテルだった。
荷物をとくのも早々に、パリ市内へ繰り出す。
オペラ座の階段 まずはホテルのすぐ側に位置する(旧)オペラ座を訪れ、内部を見学する。シャルル・ガルニエの設計になるこのオペラ座の豪華絢爛さは尋常ではない。ミラノのスカラ座、ウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場という、ヨーロッパを代表するオペラ座の中でも、建物の豪華さと言う点では抜きんでている。ましてやホールの天井にはシャガールの大壁画がそこで行われる興行の質を見定めるかのごとく燦然と輝いている。
しかし、残念ながらこのオペラ座ではもはやオペラはほとんど上演されていない。数年前に新しいバスティーユの新オペラ座にその席を譲ってしまったのである。ここではもっぱらバレエなど、あまり当たり障りのない演目が上演されているのである。結局あまりに美しく華美な入れ物を作ると、そこに入れるものが見劣りしてしまうため、入れ物としての機能が果たせなくなるという不幸な例なのかもしれない。
こうした思いを持ちながらオペラ座を後にしたのが丁度お昼時。ランチで腹ごしらえということで、オペラ座の向かって左にある有名なカフェ・ド・ラ・ペでサンドイッチとコーヒーを食する。(ちなみにこの有名なカフェの入る建物もオペラ座と同じシャルル・ガルニエの設計による。鏡とアールデコの装飾を多用した見事なまでに華美な内装である。しかし我々は夏という事も有り、外にせり出したテラス席に着く)。
子供たちはホットドック。しかしパリではアメリカのホットドックと違ってパンもソーセージも美味しそうに見えるから不思議なものである。パンに関しては全く味も風味もないアメリカのそれとは比べ物にならず、風味も心地よい歯ごたえもある。それにぬってあるバターが甘く香しいこと。パリに来たっていう実感がふつふつとわいてくる。
腹ごしらえが済んだら、次はシャンゼリゼ大通りの方に向かって散策開始である。途中マドレーヌ広場でフォーションのデリカテッセンに立ち寄って、少々買い物をし(フォーションは日本でも一時アップルティーが有名になったが、実は素晴らしく美味しいヴィネガーを買わない手はない。シャンパンヴィネガーやシトラスヴィネガー、プロヴァンス風の香草の入ったヴィネガーなど、サラダドレッシングに使うと最高のヴィネガーがずらりと揃っている。それから紅茶ではなくてコーヒー。こくのあるフレンチローストのまろやかなコーヒーが真空パックになって売られている。本当はチーズも逃す手はないのだが、今回は旅の始まりに立ち寄ってしまったので、生鮮食品はあきらめざるをえない。