フランス編 ヴェルサイユ宮殿
手塚 代表取締役名誉相談役
翌24日は、朝から小雨模様。しかし今日は朝からヴェルサイユ宮殿に行くことにしている。モネの絵で有名なサン・ラザール駅にタクシーで向かい、ヴェルサイユ行きのローカル電車に乗る。9時半にはヴェルサユの駅に着くが、残念ながら雨がしとしと降り始める。しかしこの天気のせいか夏の観光シーズンにしては比較的すいているチケット売り場に行き、それでも列を作っていたガイド付きツアーを避け、テープの解説を聞きながら自分たちでまわることのできるセルフガイドツアーに申し込む。これならば待ち時間はゼロである。
太陽王ルイ14世が贅を尽くして建設した絶対王政のシンボルともいうべき、絢爛豪華な宮殿の間をそぞろ歩く。総大理石作りの「全権大使の階段」、有名な「鏡の間」の装飾性と壮麗さには圧倒されるが、ここは記憶に焼き付けておかなければいけない。王の寝室(といっても執務を寝台の上で行ったとされている)の夢見の悪そうな華美なベッドにも注目。
建物の中の見学を終えて外へでると、幸い雨もほとんど小止みになっている。幾何学模様と豪華な噴水で有名な広大なフランス様式の庭園をそぞろ歩く。宮殿正面のラトーンの泉(円形階層状の噴水)は、太陽神アポロンの母、ラトーンの彫像を据え、そのすこし先にたたずむアポロンの泉と呼応して太陽王ルイ14世を象徴している。
宮殿正面には、長大なグランカナル(運河)がまっすぐに伸びて、両脇の森を分断している。その運河をしばらく進んだ右手の林の中に、こぎれいなレストランが建っている。ここに入って昼食。シーフードの入ったクレープを食する。食後のコーヒーをすすっているとき、ふとガラス張りのまどから心地よい自然の光がさしてくると思ったら、雲が切れ始めて太陽が濡れた木々に光を照て始めていた。
さて、食事の後は、ツアー客ではなかなかいけない「大トリアノン」と「小トリアノン」の離宮、そしてマリーアントワネットの東屋と農家へと向かう。両トリアノン離宮は、ヴェルサイユ本宮を見た後では、実に質素な館といった感じのたたずまいである。特に小トリアノンは、ワシントンあたりの弁護士などが住んでいてもおかしくない、普通の人サイズの建物である。ただ、その裏には池にとりかこまれ、自然を生かした心和む庭園が広がる。もしかしたら王も、絶対君主の権勢を誇示するヴェルサイユ本宮ではなごむことができず、このような自然にかこまれた人間サイズの離宮を作ったのではあるまいか?ここはルイ15世が愛人、ポンパドール夫人と逢い引きするために作ったとされ、後にマリーアントワネットがこよなく愛でた離宮であるという。実はここも記憶に残しておく必要がある。ルードヴィッヒのリンダーホーフ城のモデルとされているからである。
最後に訪れたのはマリーアントワネットの東屋と農民の家である。ここに至っては、本宮のまるで正反対、木造の田舎風納屋のような東屋と、水車のまわる農家のわらぶきの建物が、小さな池の回りに点在している。その自然に溶け込む姿は何となく日本庭園を思わせるものがある。このような区画があの同じヴェルサイユの中にあることは驚きだ。この庭園の右翼にある離宮と東屋から本宮にもどる途中には、壮麗なネプチューンの泉がしぶきをあげている。再び人工の美と調和の世界に引き戻されるわけだ。
かくしてフランス絶対王政の栄華を極めたヴェルサイユ宮を後にし、今日のフランス人たちが生活をいとなむヴェルサイユの街で、午後のお茶とビールで喉を潤し、再び電車でパリの街にもどる。
今宵の夕食はオペラ座の側で観光地としても有名なGrand Cafe Capucine。ベルエポック調の豪華さで、巻き貝などの螺旋形、曲線を多用したちょっとエロチックな内装のレストランである。ここの2階席に付き、生牡蠣や海老の盛り合わせ、魚介類のスープとすずきの白ワインソースを味わう。ワインはシャブリ・プルミエ・クリュ。魚介類のスープが、ブイヤベース風にサフランとにんにくの効いた味付けで、魚介類のだし汁と合わさって実に美味。夏のパリの宵を堪能する。