ローテンブルグ 2
手塚 代表取締役名誉相談役
夕食まであまり時間がないので、ホテルからすぐの所にあるマルクト広場に出て散策する。この広場に面して、ケーテ・ウォルファルトというクリスマス用品専門の土産物屋がある。これがタダモノではないのである。店に一歩入ると、どこまでも奥に続くクリスマスの装飾とツリーの洪水。一番奥の大きな部屋は、体育館のような天井の高い空間に考えられる限りのロマンチックなクリスマスの飾り付けがなされており、見事としか言いようがない。
しかもアメリカのディズニーランドのように商業化された派手さではない。ドイツ・オーストリアのクリスマスの雰囲気そのものである。雪に閉ざされた森の中の一軒家で、暖かい暖炉を囲んで、樅の木を飾り、いかにも素朴でしかし精巧にできた手作りのオーナメント、木彫りのくるみ割り人形などに囲まれて静かなクリスマスを迎える……そんな品位のある雰囲気いっぱいの店である。
さて夕食であるが、マルクス・トゥルム・ホテルにもどり、ここのレストランで取ることにした。がっしりとした木の家具、木枠の窓に囲まれたドイツの田舎風レストランだ。フランケンワインを飲みながら、子牛フィレ肉のカルバドスソースをメインに食する。田舎の素朴な料理だが、美味。
食後は再びマルクト広場に取って返す。広場を見下ろす市庁舎の階上の窓辺に、午後9時になると30年戦争時代の記念の人形が現われ、ワインを飲むのだという。そういえばミュンヘンの市庁舎の踊る仕掛け人形といい、ドイツにはこの手の嗜好が多いようだ。
多くの観光客が集まる中、厳かに9時の鐘がなるのに合わせて時計の両側の窓が空き、向かって右側にマイスタートルンク(酒飲みのマイスター?)のヌッシュ市長、左側に30年戦争の敵将ティリーが現われて、ワイン飲みを競う(といっても素朴でちゃちな人形がジョッキをあおる簡単な動きをみせるだけだが……)。せいぜい1分にも満たないこの仕掛け人形、ちょっと人気だおれの感がした。もっともこの仕掛け、1631年のドイツ30年戦争当時、ティリー将軍に敗けた帝国自由都市ローテンブルグが、恭順の意を込めて3リットル入りのワインジョッキを差し出した際、「このワインを一気に飲み干す者がいたら特赦する」といわれ、ヌッシュ市長自ら買ってでてイッキ飲みして街を救ったという史実に基づいたもので、なんとなくのどかな中世の戦争の雰囲気を今に伝えている。
名物というのでわざわざ出てきたのであるが、これではちょっと拍子抜け。帰りがけのカフェで冷えたビールを買って気を取り直す。