リンダーホフ 1
手塚 代表取締役名誉相談役
8月30日金曜日。今日の午前中はガルミッシュから程近いドイツ最高峰のツークシュピッツ観光に行く。ガルミシュから約10km離れた標高1000mのところにあるEibsee(アイプ湖)に車を停めて、そこから一気に標高2964mのツークシュピッツ山頂までロープウェイで登るのである(このロープウェイ、何と1964mも一挙に上ってしまう!)。頂上の絶景を期待して登るが、残念ながら頂上は天候が悪く雪が舞い、視界不良でアルプスの絶景は霞の向こうに閉ざされていた。しばらく待つが回復の兆しもないので、あきらめて(展望のない)展望レストランでソーセージとビールの昼食をとり下山する。
帰りは一旦標高2600mのZugspitzplattまで別のロープウェイで降りて、そこからアルプスの岩山を切り開いて作られた登山電車でのどかに下山する。これはスイスのグリンデルワルトにあるユングフラウ登山電車と同じような、いわゆるアプト式登山鉄道である。午後、ガルミシュの街を少しだけ散策してから、北西20kmにあるリンダーホフ城に向かう。
リンダーホフはルートヴィッヒ2世が建てた城の中で、唯一完成した城である。バイエルンの比較的なだらかな(日本的な)木々に囲まれた山岳地帯を走っていくと、見落としてしまいそうな入り口がある。中心となっている館(城というより館という方がふさわしいくらい、比較的小ぢんまりとした風情の建物である)の回りに、バロック風の噴水に囲まれた庭園が広がり、さらに牧草に囲まれた広大な敷地の散策道の途中に、イスラム風の東屋、人工の洞窟と地底湖のグロッタが配置されている。
ここリンダーホフはヴェルサイユのトリアノン離宮を模して建設されているというが、この自然に囲まれた静かな雰囲気は、確かに小トリアノン宮に通じるものがある。館の規模も小トリアノンと同じくらいだろう。まずは中心にある城の見学に向かい、約1時間半の英語ツアーに入って内部を見学する。
まず入り口を入るとすぐに目に付くのが太陽王ルイ14世の騎馬像である。ルートヴィッヒのブルボン絶対王朝への憧憬が伺える。そこから続くコブランの間、謁見の間などは、目を見張るばかりの金装飾で、ベルサイユを遥かに凌ぐロココの絢爛豪華さである。ただ部屋の大きさは昨日のヘレンキームゼー城よりいくぶん小振りである。
何を言ってもこの城の目玉は王の謁見室を兼ねた寝室である。部屋中金づくしの装飾に囲まれる中、太陽王の象徴である太陽の金飾りをヘッドボードに抱いた純金装飾の寝台が、青い天蓋とベッドカバーをアクセントにして配置されている。金と赤を基調としたヘレンキームゼーと優るとも劣らない華美さであるが、金と濃紺の組み合わせのここリンダーホーフの方が趣味がよい(もっとも金きら趣味の中での相対的問題なのだが……)。名匠ヴィスコンティは、映画「ルードヴィッヒ」の中で、このベッドに横たわりシャンパンを飲みつつ、美男の俳優カイルが独演するシェークスピアの悲劇に陶酔するルードヴィッヒを、神鬼迫る映像で描いていた。もちろん主役はこの言語を絶するきらびやかさの寝室そのものである。