ノイシェバンシュタイン城 1
手塚 代表取締役名誉相談役
翌8月31日、土曜日。朝8時半に朝食をとる。昨夜は気が付かなかったのだが、このホテルには意外や多くの日本人の団体観光客が泊まっている。観光は混みそうだ。ノイシェバンシュタインへの上り道はかなりの坂なので歩くとつらそうである。運良くホテル前に待機していた馬車を捕まえる事が出来、馬車で優雅に参道を上っていく。ルードヴィッヒもこうして馬車で入場したのだろう。城の入り口につくとかなりの数の観光客でにぎわっている。ドイツ語、英語、フランス語、日本語などのツアー毎に列ができているが、意外にも英語の列が一番長かったので、比較的短かった日本語の列にならぶ。
さて、いよいよ内部の見学である。この城は、外見はディズニーランドのシンデレラ城のモデルともいうべき優美なたたずまいを見せているが、実は内部は黒光りするオーク材と中世ドイツの真鍮のシャンデリア、そしてワーグナーの楽劇をモチーフとした数々の壁画で飾られており、まことに暗く重苦しい雰囲気の城である。ヴィスコンティの「ルードヴィッヒ」でも、王がバイエルン議会の議員たちに狂人として捕らえられるのがこの城であったが、すさまじい雷雨の闇夜に陰陰と影を落とす城内、降りしきる豪雨をついて不吉にそびえる塔の姿が、このクーデターの背景として描かれており、印象的であった。
王の寝室も、ヘレンキームゼーやリンダーホフの絢爛豪華と一転して、ここではリーメンシュナイダーの祭壇を思わせる黒々とした木の飾りに覆われた小振りのベッドがおいてあり、見方によっては棺桶のような暗い憂うつな印象を与えている。フランス絶対王政の城をモデルとしたきらびやかな2城に対して、ドイツの暗く深い森にたたずむ中世騎士物語の城は、どうしても陰鬱な雰囲気になってしまうのかもしれない。
城の最上階には、三角屋根をそのまま天井にした大きなホール「歌手の間」がある。ここは、ノイシェバンシュタインの中では比較的明るく開けた空間である。ワーグナーの「タンホイザー」に出てくるヴァルトブルグ城の歌合戦の間を再現したもので、今では夏に実際コンサートに利用されているという。壁画は同じワーグナーの舞台神聖祝典劇「パルシファル」をテーマにしたものである。
それにしても興味深いのは、この城が1869年着工ということで、建設途中の写真を見るとなんと鉄筋コンクリートで作られていることである。見学通路の途中に丘の中腹に城の骨組みとなる鉄骨が組まれている写真が飾られているのである。また、ルードヴィッヒは極端な嫌人僻があり、食事をだれにも干渉されずに一人でとるため、料理を乗せた食卓がそのままエレベーターで王の食堂にせりあがるようにした仕掛けを作っているのであるが(これはリンダーホフもヘレンキームゼーも共通)、食堂の真下にある調理場には、自動回転グリルやオーブンの廃熱を使って皿を余熱するシステムなど、近代技術の粋が集められている。