手塚 代表取締役名誉相談役
8月13日続き
さて、今日最後のワイナリーは、無名ではあるが非常に優れたシャルドネを作っている、Vine Cliffである。Silverado Trailに面した小さな入り口に気付かず、一旦通り越してから引き返してきたのであるが、入り口の門が閉まっている。
インターホンがあったので押してみると返事があった。「おたくのワインが買いたいのだけど」と頼むと、「本当は予約なしには入れないのだけど、今丁度見学とティスティングの予約をしている人が来るのを待っているところだから入れ」という。ラッキーである。自動で開かれたゲートを通って丘の中腹にある建物をめざす。 ここはロバート・モンダヴィと正反対。全く観光客を受け入れる体制になっていないが、車をおりると建物の中から人のよさそうなオジさんがでてきて、welcomeと言って歓迎される。
実はこのVine Cliff、この4月に東京で家内と行った渋谷にあるワインバーの名店シノワでお勧めとしてグラスサービスされたシャルドネの作り手である。その豊潤な香りと引き締まった果実味が忘れられなかったため、今回是非訪れたかったワイナリーである。東海岸の酒屋ではまず見かけたことがない。案内をしてくれたオヤジの話で納得したが、このシャルドネは年間1400ケースしか生産していないという。
早速新しい97年のシャルドネをティスティング。Wine Spectator誌で92点である。美味。グラスを片手に工場の外へでてオヤジと話していると、件の予約客がカップルでやってくる。彼らも我々のティスティングに加わり、昨日出荷し始めたばかりというカベルネ・ソーヴィニオンを試飲させてもらう。小さなティスティンググラスのなかでも豊かな香りが立ち上がり、しっかりしたタンンンに加えシルキーな後味で美味。そのほか最近始めたというピノとメルローを試飲。
さらに工場(倉庫)裏手にあるステンレスの発酵タンクを見せてくれる。意外と小振りで、テニスコート1面くらいの敷地に数本のタンクが建っている。こういう小さなワイナリーは葡萄の粉砕機までは持っておらず、収穫の時期に移動式の粉砕機を借りるのだそうだ。
このワイナリー、オーナーはエンバシー・スイーツ・ホテル・チェーンの元オーナーで、現在はSweeny HotelsのオーナーであるRob Sweeny氏だそうで、今その品質で売り出し中の未だ知られざる隠れた銘ワイナリーである。丘の斜面を利用してカベルネとピノを栽培、シェルドネは同じナパでもより涼冷なカルネロス地区で栽培しているという。オーナーは葡萄の木の一本一本を子供のように区別できるということ。
倉庫・工場の前に広がる花に囲まれた広場の奥の丘には、岩盤をくり貫いたワインの貯蔵庫を掘る計画が進められているという。生産量も今後拡大するというから、有名になるのもそう遠くないだろう。ここでは、シノワで飲んだ96年のシェルドネ2本(在庫最後の4本中の)と、昨日出荷を始めたばかりというCSを1本購入。本当はケースで買いたいのだが、インディアナ州は他州からのワインの個人発送を認めていないということであきらめる。
ちなみに一緒にまわったカップルは、サンディエゴから来ており、キャラウエィゴルフに勤務しているという。「カールスバッド」だろ?と聞いたら「何で知っている?」と驚いていた。(数年前手がけていたチタンのプロジェクトでテイラーメードを訪れたことがあるが、サンディエゴのちょっと北のカールスバッドにはキャラウェイやテーラーメードを始め、大手のゴルフメーカーのデザイン部門が集まり、一種のシリコンヴァレーの様な共生状態にあることを知っていた。)彼らはシャルドネを1ケース購入して発送していた。
さて、これで今日のワイナリーめぐりは終わり。ホテルに一旦帰って夕食へ出かける準備。今夜はSt.Helenaの中心で日本人シェフが活躍していることで評判というレストラン、Terraに予約しているが、金曜ということもあってか先週予約をいれても6時しかとれなかった。
まだ明るい日差しが残るなか、今宵のレストランへとむかう。ここは、フランス料理をベースに日本料理、イタリア料理などの要素も取り入れた、斬新なカリフォルニア料理で有名。さすがに明るいうちから重たいカベルネを飲む気にはならず、昨日に引き続いてCaleraの今度はJansen Pinot Noir 95年を開ける。これもピノにしては濃厚かつ豊潤なアロマとビロードのような舌触りで美味。ロマネコンティの半分の味を20分の1の価格で楽しめると評されるカリフォルニアの高級ピノの代表である。
前菜はトロのタルタル風と烏賊と茄子のトマトソース。このトロのタルタルは、トロの刺し身をアボカドとマヨナーズであえてたたき、形抜きしたもので、ワサビのソースが添えられていて極めて美味。本当はシャンパンが合うだろうが・・。
メインはモンクフィッシュ(あんこう)のシソ・ポンズソース・トビコ添え。日本人にはポンズソースは理解できるが、米国人の客には分かるまいと思っていたら、隣の席の一行が案の定ウェイターにWhat is Ponzu?と質問していた。もっともウェイターも馴れたものですかさずIt is a Japanese citrus vinegar.と答えていた。
今一つのメインはウズラのロースト。これだけ豊潤なブルゴーニュスタイルの赤ワインにはやはり鶉のようなジビエがぴったりだ。表面にかるくこおばしいソースを付けて煎餅のようにこんがり焼いたウズラの骨付きもも肉が2つ供された。満足。夕食を終えても辺りはまだ薄明るい。腹ごなしにSt. Helenaの街を少し歩いてからホテルに帰る。