手塚 代表取締役名誉相談役
8月14日
今日はナパを離れて、カリフォルニアの太平洋岸を北上し、カリフォルニア最北端の街、ユーレカに向かう予定。
朝、Vintage Innの宿泊客にサービスしているシャンパン・ブレックファーストを食べて(ここの卵サラダは珍しくあっさりしていて、自家製マヨネーズが控えめなこくを出し美味だった)、再び29号線を北上。途中昨日立ち寄ったロバート・モンダヴィと29号線をへだてて真向かいにあるOpus Oneのワイナリーに立ち寄る。
ここはロバート・モンダヴィとボルドーのバロン・フィリップ・ロートシルトのジョイントベンチャーで、驚くほど奇麗なワイナリー。整然と整理された葡萄畑の中に、周りを芝のスロープでかこまれた宇宙ステーションのような超近代的なコンクリートの建物が姿を表す。建物自体が美術館のようである。この地下に銘酒オーパス・ワンの樽が静かに眠っているのだろう。屋上に出ると周りの山々に囲まれたナパ盆地の葡萄畑が見渡せる。壮観である。
しかしティスティングルームは何と25ドルもかかるというので、早々に退散する。いくらモンダヴィとシャトー・ムートン・ロートシルトの共作の銘酒でも、朝から25ドル払って試飲する気にはならなかった。インディアナの酒屋に行けば1本98ドルで売っていることを知っていたし・・・。
さて、これでナパを後にして、29号改め128号線を北上、Alexsander Valley、Anderson Valleyといったワイン産地を通り、一路太平洋岸へ向かう。途中数々のワイナリーを通るが、葡萄がたわわに実っていて収穫が近い(8月下旬か)ことを期待させている。
Anderson Valleyをすぎたあたりから、巨木Red Woodの林の中に入っていくが、これは壮観。直径3―5m、高さ30―40mはあろうかという巨木が林立する中を道が貫通している。幹は赤茶で地上15mほどまでは全く枝がなく、すきまを通して辺りが見渡せるのだが、上部には枝がうっそうとしげり、太陽光線を遮断している。地表にはシダの様な原始的な草が生えており、そこを通るとまさにスターウォーズに出てきた異星の原始林の世界だ。
この林を抜けると1号線、Pacific Coast Highwayに突き当たる。そこから少し北上した海岸線にあるのがメンドシーノの街である。Mendocinoをイタリア語読みすると、メンドッチーノとなり、なにやら面倒くさそうな名前の街だが、ここは北カリフォルニアの人たち、特に芸術家たちの隠れたリゾート地として知られている。太平洋にせり出す岬のとったんの丘にわずか数ブロック四方の街があるだけだが、ここは条例で建物の立て替えや近代化が禁止されていて、ノスタルジックな町並みが残されている中、ブティックやギャラリー、カフェ、レストランなどが連なっている。
車を停めて(土曜のせいか来訪者が多く、駐車スペースを見つけるのが一苦労だったが)、1時半すぎに昼食をとりに洒落た外観のThe Moose Cafeに入る。テラス席も魅力的だったが、海風があって少々寒そうだったので、モダンなアートで飾られた明るいメイン・ダイニングに席をとる。
昼食は青豆のスープと野菜のペンネ、それに蕎麦の上にツナのタタキをのせた創作料理を注文。青豆のスープは少々泥臭くてドイツ・バイエルンの田舎あたりででてきそうな味だったが、ちょっとスパイスが効いていて辛い。ツナタタキの蕎麦ヌードル添えは、醤油とスープストックをまぜたようなソースであえて有り、結構美味しい。実にヘルシーなレシピーだ。ペンネは何の変哲もないが、新鮮な地元野菜を沢山あえており、赤ピーマンやアスパラガスなど、甘くて非常に美味。食後少しメンドシーノの街を歩き、3時半すぎに出発。
太平洋に添って北上を続けるが、道は次第に細くなり曲がりくねってくる。絶壁の脇を切り開いて通る道からの景色は、太平洋から吹き付ける風に波頭が白く立ち、北斉の版画を100倍に拡大したようなダイナミックな光景である。くねくねと山の中に入ったところで101号線に合流。これで高速かと思ったら、まだかなりの間、山道で速度制限が続く。あとユーレカまで60マイルというくらいのところからようやく片側2車線の高速になり、70マイルで走れるようになる。結局思っていたより時間がかかり、ユーレカのホテル、Eureka Innについたのは7時半だった。
Eureka Inn。これはカリフォルニアの北の端、木材などの出荷をになう港湾都市Eurekaに1922年に作られた100室をほこるHistoric Hotelである。外観はヴィクトリア調の堂々とした4階建て木造建築。Eurekaの街自体はなにか歴史から取り残されたような人通りの少ない寂れた雰囲気をかもしているが、このホテルはNational Registry of Historic Placesに指定されたクラシックなたたずまいを示している。
そして何とこのホテルのメイン・ダイニングThe Rib Roomはその豊富なワインのストックと合間ってWine Spectator誌のAward of Excellenceを何度も受賞している。早速Rib Roomに行くが、テーブルの用意ができないので8時15分に来て欲しいと言われ、しばらく待ってから出直す。
今宵のディナーはクラムチャウダーとマッシュルームのサラダ。メインはプライムリブ(厚切りローストビーフ)とフィレミニオンステーキ。賞を取ったレストランにしてはオーソドックスなメニューだが、ワインリストが半端じゃなかった。電話帳のようなリストにカリフォルニアを中心に、選り抜きのワインが複数の年代のヴィンテージを連ねている。カリフォルニアのレークカウンティの中堅どころ、GuenocWineryがボルドー風にカベルネとメルローをブレンドして作ったLangtryの90年を試してみるが、これは滑らかな舌ざわりと立ち上がる芳香を持つ逸品だった。抜栓してから時間がたつにつれ豊潤な香りが立ち上がり、まろやかさが増してくる。ボルドーのシャトーものに負けない逸品だ。非常に上質の肉を使ったジューシーなステーキと絶妙の組み合わせ。デザートにはカラメルのアイスクリーム。