守りだけをやってる野球じゃつまらない
手塚 みんな、「構造的な問題がある」ということは分かっているんですけど、では個別各論をどうするかは、構造論では解決しないですよね。個々の企業の経営者がこの点に思い至らなければ。
運営者 ところが、個々の企業経営者が考えているの何かというと、「政府がもっと経済対策をしてくれないかな」とか、「租税特別措置を有利にやってくれないかな」という、「くれくれ型」の発想で、「どのようにすれば自社が儲かるようになるのか」ということは、ほとんど考慮の外なのではないでしょうかね。「こんなに景気が悪いとムリだよ・・」と言い訳してるだけで。
手塚 常に守りだけをやってる野球みたいなもんですなぁ。
運営者 それじゃ勝てないじゃないですか。
手塚 勝てないどころかつまらない。やっぱりバッターボックスに立たなきゃ。
でも、精神構造的に「攻め」を考えられるような状況にないし、構想力のある経営者は少なくなってしまったかもしれませんね。リスクについて保守的になっている・・というかリスクを管理するというノウハウがこの10年で全く失われてしまった。今やリスク管理とはリスクを取らないことの同義語なんですね。ノーリスク・ノーリターンの原則が正しければ儲からなくて当然なんです。
運営者 精神的に追い詰められていることがひとつと、そもそものアイデアを出すことができないような人が経営層に上ってしまっているということですか。
手塚 守りをあまりにも長くやりすぎたために、バッターボックスに立っても「どうやってバットを振ればいいのか」分からなくなっているということかな。バットのもちかたも知らないのかもしれない・・。
もうひとつ良くないんじゃないかと最近思うのは、「会社は儲けなければならない」ということが日本の学校教育ではきちんと教えられていないということです。日本の多くの経営者が経済学部や法学部といった人文系の学校教育を受けているとすると、そのなかで「企業がどうすれば儲かるようになるか」を教えている唯一の学問は、おそらくミクロ経済学ですよね。
運営者 そうですよね。
手塚 そのミクロ経済学の一般教養で、何を教えているか考えると、やっぱり愕然としますよ。
何となれば、需要と供給のバランスのところから教え始めて、「完全競争」の世界というのがある種の理想の世界として展開されるわけです。社会の非効率がないということで。
運営者 簡単に言うと、情報の非対称性がない世界ですな。