経済学は現実のビジネスには応用がきかない
運営者 「完全競争」を簡単に言うと、情報の非対称性がない世界ですな。
手塚 あらゆる供給者の製品に差別化がなくて、完全に同じものを、完全に同じように供給した場合にどうなるかという話です。もちろん経済的な利潤はゼロ。それで一歩進むと、「製品の差別化があった場合、需要曲線がどう変化するか」となる。競争的独占っていうやつですね。
その反対の極として、「完全独占」という世界があって、「独占企業が供給を完全に抑えてしまって独占利益を上げるのは社会悪である」と教えています。「独占企業は独占性ゆえに供給料を絞って独占的利益をあげることになる。これはけしからん。社会の公正は競争の結果として、独占的な利益がなくなるというところにある」と、滔々と教えてくれるわけです。
運営者 まったく教科書的で現実的ではない。ビジネスの視点がない。
手塚 そう。経済学者はナイーブなんです。でも実社会での競争というのは、完全独占でも、完全競争でもないんです。現実社会の完全独占というのは一昔前のNTTであるとか、東京電力であるとか。非常に特殊なケースですよね。
運営者 地域独占ですね。この地域独占業種の競争政策というのは非常にむつかしくって、今電力自由化でかなり苦労して進めていますよ。NTTについても分割・民営化ということで変化してきているし。
手塚 そういう世界も、だんだんなくなりつつあります。
だからほとんどの実企業社会における産業の構造というのはたいていが「寡占」なんです。あるいは競争的な寡占状態ですね。限られた数の企業が同じ市場を巡って競争を繰り広げる・・。
具体的に言うと、業界の中に数十社が重なり合ってひしめき合って戦っているというのが「寡占」であると。
こうなってくると、経済の需要・供給の理論の世界では、定量的に扱いにくいので学校で教えにくい。だから「実は寡占の世界というのはゲーム理論で説明できるんですよ」というふうにミクロ経済の講義の最後の二コマくらいで言って、ごまかしちゃうんです。
運営者 ・・・であるならば、ゲーム理論を勉強すればいいわけですね。
手塚 ところが、大学で教えているゲーム理論の授業がこれまた実社会では役に立たない。