ゲーム理論の授業も実社会では役に立たない
手塚 ところが、大学で教えているゲーム理論の授業がこれまた実社会では役に立たない。
何を教えているかというと、2社が競争している世界で、敵がどのように動いたら自分はどう動くべきかといった問題を、ある前提条件のもとにした場合、「この問題には解があるのかどうか、どちらが勝つのか予想してみよう」ということなんです。
「AさんとBさんがこういう前提条件の下で戦った場合、このような結果が出たらこの人はこのくらい得をします。そうすると、どこに平衡状態ができるでしょうか、問題を解いてみましょう」という話ですから。「与えられた条件の下に競争した場合に世の中はこうなる」と言っているだけです。
「じゃあどうしたらいいのか」ということは教えてくれるわけではないんですよ。
運営者 なるほどね。学問とはそういうもんですよ。
ゲーム理論の応用はね、軍事戦略学の次は、実は生物学から始まっているんです。
手塚 そうなんですか?
運営者 生物の適応戦略を考えるときに、ゲーム理論を応用したんです。ジョン・メイナード・スミスというイギリスの学者です。
2種類の性格の違う鳩を想定します。攻撃的なタカ派の鳩は、敵が縄張りに入ってくると必ず戦いを挑むんですが、相手が強いと死んでしまいます。一方で敵が戦いを仕掛けてくると、必ず退くというハト派の鳩もいます。この戦略の鳩は敵に負けてしまいますが、闘って傷ついて死ぬということはありません。そうすると集団遺伝学上、ハト派の鳩と鷹派の鳩の比率はどのように安定するかが計算できるわけです。
こういう戦略は文化的に進化するものではなくて、突然変異として発達するものです。その中で、他の突然変異をすべて排除することができるような安定的な戦略のことを、「ESS」(進化的に安定的な戦略)として提唱しています。
『進化とゲーム理論』(産業図書)という本が出ていて、面白いですよ。
こういう応用例が、経済学にも影響を与えていると思いますよ。
手塚 それで思い出すのは、「週刊文春」にコラムを持っている竹内久美子ですよね。
運営者 利己的遺伝子論を人間に適用してコラムを書いているので有名な人です。
手塚 彼女は京都大学で日高敏隆の弟子だった。