経済学のエンジニアリングを考える
手塚 で、物理学では量子力学論にしても素粒子論にしても、基本的にはそれだけではまったく役に立たない美しい数学の体系のようなものなんです。高度に抽象的で。
だから理論物理学だけでは、それを応用して何か実生活上の価値のあるものを作るれないんですよ。アインシュタインの相対性理論といっても、原子力工学に応用することで核兵器や発電ができるわけで。量子力学の場合、光工学であるとか光量子エレクトロニクスに展開した後で初めて、光通信システムや半導体のチップができあがるわけです。半導体のチップの中に流れているのは電子であって、その電子は量子力学の理論に従って流れているというのは事実ですが、しかし量子力学を知っているからといって半導体のチップは作れないでしょう。量子工学や半導体工学といったエンジニアリングに応用されて始めてモノになって実用に供される。
それは経済学を知っているからといって経営ができないのと一緒ですよ。
運営者 なるほど、わかりやすい。
手塚 そこの部分を橋渡しするエンジニアリング、それが「ゲーム理論活用術,-儲けるための経済学を学ぶ」なんです。
「倫理の部分を抜きにした経済学のエンジニアリングって何なんだろう。それがあればけっこう役にたつものかもしれないな」、そう思ったんです。
運営者 例えば、どういうことが考えられますか、その「悪魔の経済学」って。
手塚 じゃあ簡単なところで、こんなことを考えてみましょうか。
完全競争というのは製品の差別化のない世界のことです。だれでも作ることができる製品でしかも誰でも市場に参入できるから、常に無数の生産者がいるという状態が前提になっている。その中で、多少話を現実に近づけるとすると、製品に差別化がある場合、例えば「ブランド力が違う」といったケースですね。そうするとブランド力のある製品は儲けることができる。同じコメでも『魚沼産コシヒカり』なんていうのはそうですね。
でも完全競争に近い世界では必ず類似製品がどんどん出てきて陳腐化してしまう。初期の利益は維持できなくなるのですね。完全に自由な新規参入が認められているのであれば、長期にわたって考えると、どんどん新しい参入者が出てきて、だんだん差別化の要素がなくなってしまうのでやっぱり儲からないということになってしまいます。
だったら、それを逆手にとってしまえばいい。つまり経済学者は必ず前提条件を置くわけですが、その前提条件自体を変えてしまえばいいと思いませんか。「新規参入」という条件自体をなくしてしまえばいいわけです。ですから、「新規参入をされずにすむにはどうすればいいか」を考えればいいわけですね。それを考えるのが経営者の仕事です。