(半)独占状態の維持が経営者の仕事
手塚 マイケル・ポーターは、「コスト・リーダーシップ」「差別化」「焦点集中化」戦略という結論の部分だけを言っていますが、その裏にある需要と供給の中で、「この部分を止めてしまえば新規参入はなくなるだろう、それによって確実に独占的利益が転がり込んでくるだろう」ということを考えるべきです。どうやって製品を差別化し、どうやって新規参入を阻止して(半)独占状態を長期的に維持するかを考えるのが経営者の仕事ですよ。もちろん独禁法に振れない合法的なやり方でですが。
それを具体的にやるためには、世の中にあるそのためのツールに思いを馳せればよいわけです。
運営者 一番簡単なのは、特許ですよね。
手塚 そう。合法的に参入を阻止する手段は、まず特許がありますね。これは今ものすごく注目されてるし、企業は開発者に対する巨額の報奨金を与えてでも特許を確保しようとする。特許は企業の戦略的なコア・コンピタンスであるという認識ができています。
もう少し広くゲームソフトや映画などの知的所有権、著作権も同様ですね。あるいはシャネルやブルガリといった商標、ブランドも圧倒的な差別化要素であり、独占的な利益の源泉でしょう。
運営者 その他には何がありますか?
手塚 例えば、メンバーシップ制度。航空会社のマイレージ・プログラムなんていうのは、新規参入の猛烈な障壁なんだよね。顧客の囲い込みのツールです。これは麻薬みたいなもので、一旦ある航空会社のマイレッジを貯め始めるともう他の航空会社には乗れない。
私の友人で昔からノースウェストのメンバーがいて、彼なんてどこに行くにもノースウェストを使う・・。ユナイテッドの直行便があるのにわざわざデトロイトで乗り換えてもノースにのる。これって麻薬ですよね。ノースは「ノースワースト」って揶揄する人がいるくらい機内サービスが悪いっていうのですが、彼にとってはサービスが悪かろうか関係ない。マイルで囲い込んだ客が乗ってくれればサービス業の本質である機内サービスは疎かになってしまうんです。本末転倒の気がしますが・・。
一方、新規参入する場合は膨大なコストがかかる。シカゴ-ロンドン間の航路は、ユナイテッド、アメリカン、ブリティッシュ・エアーが押さえていた激戦区なわけですが、そこに数年前ヴァージン・アトランティックが新規参入したんです。その時彼らは、「一度ヴァージン・アトランティックに乗ってくれれば、5万マイルのマイレージをあげますよ」というキャンペーンですごいコストを払いました。これには驚きましたね、ふつうの人は5万マイル程度のマイレージはすでにユナイテッドとかBAとかに溜めているわけだから、そのくらいの下駄を先に履かせてやらないと新規参入はできないということなんですよ。それでも一度乗せてしまえばサービスで定評のあるヴァージンに切りかえる人も出てくるだろうっていう戦略でしょう。
でもいくらサービスが良くても最初にのせることが簡単には出来ないのですよ。マイルで囲われちゃっているから。ユナイテッドとかはそれだけの参入障壁を築くことにすでに成功していたということです。