「ラーニング・カーブ」も立派な参入障壁
手塚 1Mだろうが256Mだろうが、本質的な量産コストはそんなに違わないはずです。ただ開発初期はいろいろトラブルや欠陥があって歩留まりが低いという問題がある。つまり始めはコストも高いわけです。そこで他の人たちが入ってこない時にとにかく先行発売し量産体制を整えて歩留まりを上げてしまえば、どんどんコストが下がって、他のライバルが入ってきたころには東芝は値段を下げて売っても儲かるはずなんです。一方後発参入組は習熟曲線のはじめのころでコストが高い。
運営者 先行者はコストが下がっている分、利幅が大きくなるわけですね。
手塚 しかも値段が下がれば、より多く売れるわけですから、自分たちの収益カーブも上がっていくでしょう。
最終的には値段が下がってしまうわけですが、そのころには後から入ってきたライバル企業は追いかけられない。ずっと半周遅れでついていくことになってしまうんです。歩留まりが低い分、低価格競争を仕掛けられたら、コスト割れで売らなければならないわけですから。
運営者 まったくですな。これは立派な参入障壁になります。
手塚 だけど、当時の電機メーカーというのはまだ体力があって、コスト割れで売りながら先行者を追いかけるという競争をやってられたんでしょうね。
ではなぜ体力があったのかというと、NTTファミリーの会社であるNECや富士通、沖電気といった会社はNTTの膨大な資材調達からは確実に利幅が取れたであろうし、日立や東芝、三菱電機といった重電部門を持っている会社は電力会社からの発注で潤っていた。原子力関係なんて本当にボロ儲けだったんじゃないですか。結局、バックに安全確実なキャッシュフローがあって初めて、日本の半導体競争ができたのでしょう。毎年何千億もの設備投資を続ける・・。
ところが、規制緩和の波がきて、NTTや電力会社の調達にそれほど旨味がなくなってしまった。安全で確実なキャッシュフローが揺らぎ始めてしまったんですね。そうすると儲からないかもしれない投資競争にコミットできなくなる。それで、さっきの習熟曲線を最初にかけ上がった企業は儲かるけれど、それ以外の人はコスト割れになりますよ、という競争にみんなついていけなくなったのでしょう。
韓国はまだこれができるわけですが、ひょっとすると韓国メーカーはどこかにそういうキャッシュフローが入ってくる仕組みがあるのかもしれませんね。
運営者 日本ではそれができなくなったもんだから、遂に日本のDRAMメーカーはエルピーダメモリ1社になってしまいました。しかもインテルが出資するから、純国産はなくなっちまったってことです。世界でも3社に集約されましたからね。