独禁法に引っかからないよう潰しにかかる
運営者 だけど、そんなおいしいビジネスであれば必ず新規参入がありますよね。
手塚 そういうことです。だから、必ずしも合理的ではないけれど、意図的に常に余剰生産力を持っておくという選択肢も、経営者にはあるわけです。
そういう状態のところに新規参入者が入ってくると、彼らは最初はマーケットを奪わなければならないわけですが、商品は既存企業からどんどん供給されるし値段はどんどん下がるので利益は出ないという体力勝負を既存企業との間で行う羽目に陥るわけです。
合理的な考え方をする経営者であれば、そんな市場には出て行かないでしょう。だからある程度の過剰な生産力を常に維持しているということは、新規参入を防止するための非常に有効な手段なんです。
運営者 その代わり、そんな戦略をとっていると儲けが少なくなっちゃうじゃないですか。
手塚 だから、「どのくらいの過剰生産力を持っておくか」という線引きは考えなければならない。一歩間違えば構造不況業種になってしまう。
運営者 それは経営判断ということですね。
手塚 さらに、新規参入者があったときに、既存の業者が「徹底的に価格競争を仕掛けるぞ」という「評判」を立てるという手段も非常に有効です。
昔、電炉メーカーの東京製鉄が、H型鋼のマーケットで新日鐵に戦いを挑んだときに、東京製鉄の方はスクラップのリサイクルですから新日鐵よりもコストは安いわけです。そこで新日鐵は、東京製鉄が値段を下げたら新日鐵も下げるという徹底的な価格競争を行いました。
運営者 潰しにかかったわけですね。
手塚 露骨にやると、独禁法にひっかかりそうですよね。
でも新規参入があった場合に、既存業者は「徹底的な価格競争するぞ」というコミットメントを行うことが重要なんです。鉄壁の守りですよね。一度それをやっておけば、新規参入予備軍の会社は、2度と入ってこなくなりますよね。
運営者 見せしめですな。
手塚 東京製鉄のケースの場合は、新日鐵にせり勝って業界の地位を築くまでに3回もチャレンジしなければなりませんでしたからね。払った代償は大きい。そういう「価格競争やるぞ」というメッセージを送ることは、新規参入を防ぐための有効な手段になるでしょう。余剰生産力を戦略ツールとして使うためにはボーっとしていてはだめで、常に新規参入に目を光らせ、すきを見せないことです。戦略ツールなのですから使わなくては。