「寡占」は最も「戦略性」が求められる状態
運営者 今度は新規参入じゃなくて、寡占状態の中でライバル企業と戦うためにはどうすればいいのかという話をうかがいたいのですが。
手塚 寡占っていうのは面白いもので、実は経営者にとって最も「競争」を意識する状態なんですよ。
経済学の授業では「完全競争」が出てきて、「独占」が出てきて「寡占」はその後でしょう。そうすると何か「独占」に近い「競争の少ない」世界みたいじゃないですか。ところが経営者の立場からすると、経済学の「完全競争」には競争がないのです。競争相手は顔の見えない「市場」であって、製品の差別化が全くなく価格も市場が決めるわけですから、「戦略」の立てようがない。「完全競争」は経営レベルで見たときには「無競争」なんですね。
運営者 へー、そうなんですか?
手塚 一方「寡占」は特定の少数の競争相手と差別化された製品をめぐって市場シェアを争うという意味で、最も「戦略性」が求められる構造なわけです。敵がはっきり見えるという意味で、最も「競争的」な構造といえるでしょう。
例えば、交差点にガソリンスタンドが2軒があるとします。同じような値段で同じようなガソリンを売っています。ところが中東で戦争があって仕入れ値が上がりました。じゃあ値上げをするかどうかという問題があります。「戦略性」が必要ですね。
もしこちらが値上げをして、他のガソリンスタンドが値上げしなければ、お客はみんな向こうに行ってしまう。逆に向こうだけが値上げをすれば、こちらの客が増える。では両方値上げしたらどうなるか。
運営者 隣の町までガソリンを買いに行けば、客にとっては高くつきますから、客はそのガソリンスタンドで買い続けると。
手塚 少しは買い控えがあるかもしれないけれど、ガソリンスタンド側にしてみればほぼ同じような利益を得ることができる。でも両方が値上げをしなければ、仕入れ値が高くなった分だけ両方とも損をする、という状況を考えてみましょう。
これは囚人のジレンマというやつですね。ゲーム理論ではこういう状況では2軒とも値上げができずに結局損をすると結論しています。
運営者 しかしガソリンスタンドはお互いが情報交換をすることができれば、一緒に値上げできるじゃないですか。囚人のジレンマの場合は、どちらが自白するかによって得点(刑)が変わってきますが、お互いが全く隔離されていて談合することができないことが前提なわけです。
手塚 だから、結論からいうと、談合しない限り値上げはできないんです。
運営者 でも、それじゃあカルテルじゃないですか。