コスト構造が同じなら価格は収斂せざるをえない
運営者 でも、それじゃあカルテルじゃないですか。
手塚 露骨に談合しちゃいけないんだけど、現実の世界ではどのようなことが起こるかというと、我慢できなくなった方が、ある日開店と同時にまず値上げをするでしょう。そうするともう片方のガソリンスタンドのおやじは、同じ日の午後に値上げすることになるでしょう。お互いに暗黙のシグナルを交わすのですね。
運営者 なるほど、よくわかります。それは談合ではないですからね。
手塚 メッセージです。両方が値上げしない限り、お互いハッピーにはならないんです。同じ交差点のスタンドがいつまでも全然違う料金でガソリンを売り続けることはできないですから。それが経験的にわかっている店主は、一方の値上げはちゃんとメッセージとして受け取るわけです。
この場合お互いにメッセージを交わすことによって、半非合法的な形で談合していることになるでしょう。
結局、世の中ではげしく競争しているように見える量販店の価格もほとんど全部同じになるわけです。ヤマダ電機もコジマ電機も、「相手よりも高ければうちはそこまでさげますよ」と広告に書いてあるわけですから、最終的には値段は同じになるんです。
運営者 預金金利の自由化なんていうのもありましたけど、自由化したら銀行によって金利がバラバラになるわけではなくて、結局最終的には同じ金利に収斂するのは当然ですよね。
手塚 一度限りの勝負であれば相手を騙して自分だけ儲けることが可能かもしれませんが、長期的にビジネスをやっている限りは、合理的な経営者の中には「共存共栄」という考え方が出てくるのです。その中にはある種のメッセージやある種の自己平準化というものはふくまれるのでしょう。
運営者 時間軸が入ってくると、価格は収斂せざるをえないと。
手塚 似たようなコスト構造でやっているのであればね。全くコスト構造の違うプレーヤーが出てきたら、業界構造そのものが変わります。これはまた別な話なんです。
今度はこういうケースがあります。
例えばの話ですよ、仮にゲームソフト業界で、大手と2番手の会社が「次のソフトは何を作ろうか」と考えているとしますよね。
2番手の会社は以前から経営資源の蓄積があるので作りやすいサッカーゲームに参入したいと思っているけど、どうやら大手の会社もサッカーゲームを作りたいと思っているらしい。両方ともサッカーゲームを作ってしまうと供給過剰になってしまうからどちらかが野球ゲームを作った方がよい、という状況があると考えてみましょう。