マトリックスを重ねて均衡解の場所を変える
手塚 「もしお宅が野球ゲームをやってくれば、うちは任天堂にコミットしますよ」というように、2つの独立したゲームのペイオフ・マトリックスを組み合わせて、相手にとっては「ベストのシナリオではないにしても、そこは譲って根幹であるゲーム規格の優位性を取ってもいいのではないか」という話に持っていくと。
全く異なるペイオフ・マトリックスを重ね合わせると、ばらばらの時のそれぞれの正解に比べると、正解の場所を変えることができるわけで、自分の思うところに均衡解を持っていける。そういうことを考えなさいということなんです。
運営者 それは実際のビジネスでは、普通に行われていることです。
現実にはどうなってるかというと、プレステ2、任天堂、新規参入で苦戦しているXボックス、パソコン、それに脱落したセガ・ドリキャスという競合状態があって、しかも小売店との間に問屋が入っていて、これがまたゲーム機メーカー系列とソフトメーカー系列の会社がある。それから当然ながらライバルソフトメーカーとの闘いがある。加えてゲームのキャラクターを他のメディアでどう展開するか、その権利関係はどうするかという問題がある。今はアニメは製作委員会方式も多いし、完全自社キャラクターでもテレビ局は権利を要求してきますからね。さらにキャラクターができたら、そのライセンスをどのような相手に供与するかという問題がある。国際展開もありますし。
ですから、ソフトメーカーはいくつものペイオフ・マトリックスを組み合わせて、最適解を求める必要があるわけです。入り乱れた提携関係がありますが、当然ながら各プレイヤーはお互いの利害を計りながら、かなりのスピードで立場を入れ替えているわけです。
手塚 優れた経営者であれば、直感で行っていることですが、それがきちんと理屈で説明できなければいけませんね。
まったく異なるペイオフ・マトリックスを組み合わせることによって、敵の動きを自分の望む方向に誘導するという方法のほかに、もうひとつの方法があります。
「コミットメント」というのですが、こちらがサッカーゲームを作りたい場合に、大手企業の方が開発力もブランドもあるから放っておくと向こう側もサッカーゲームを取ってしまうであろうと。であるならば、大手よりも先に、サッカーゲームについてモーレツな投資をすることを発表するんです。あるいは「絶対に当社はサッカーゲームしか作らないであろう」とみんなに思わせるように、発売半年前に新聞に「当社は画期的なサッカーゲームを売り出します」と全面広告をして、先行予約受け付けも始めるんです。
これは強烈なメッセージとして相手に伝わるでしょう。これがもし、「サッカーゲームを作るかもしれないし、つくらないかもしれない」という中途半端な態度を見せていれば、大手企業はあなたにかまわずにサッカーゲームを開発するでしょうが、もし「2つもサッカーゲームが出たら儲からない」ということが分かっているのであれば、こちらが断固とした姿勢を見せれば向こうは参入をためらうでしょう。