「己を知り、敵を知る」思考実験を繰り返せ
運営者 しかし手塚さんがやらなければならないと言っているのは、相手を深く研究し、相手の収益構造を理解し、ネットワークや持っている資源を勘案して、どれぐらいの条件を提示すれば相手が折れるかということを着実に予測し、翻って自分の側ではどのくらいのリスクを取ることができるかということを、自社の経営資源をちゃんと分析したうえで判断しなければならないということですよね。
手塚 ということはね、経営者が最も細心の注意を払って普段からやらなければならないことは、「孫子の兵法」の通り「己を知り、敵を知る」ということで、「相手の立場になって考えたら何が得で何が損で、自分の強みはどういう部分で、弱みはどこにあるのか」ということを、ありとあらゆるパブリックな情報に基づいて相手を研究し、それで足りなければ何らかの形でインテリジェンスを使うという、地道なことを普段からやっていないと、テクニックに磨きがかからないのではないでしょうかね。
そういう思考実験を常にくり返していて、「当方がこのように動けば向こうはこのように動くだろう」とか、「むこうがこう動いたときこっちがどう動くとむこうは思っているか」とかいうことを読めなければならない。
「背景にあるのはきっとこれに違いない」という仮説を立てて、それを検証する実験を行い、観測気球を上げ、相手の反応をうかがっておく、そのような情報のやりとりを常にライバル企業と行い、自分たちでやってるゲームの構造そのものを頭の中に描きながらそういう活動をやらなければならないんだと思うんです。だけど多分ふつうの人はこれをやってないんでしょうね。
運営者 だって、テメエの会社の内部にしか目が向いてないわけですから。敵について考えてなんかないですよ。
「インテリジェンスを」というけれど、そのルートをつくるためには相当地道な努力が必要なわけで、見返りのないコストも払い続けなければならないわけです。それは「社外の情報網を構築しておかなければならない」というコンセンサスがなければ、なかなかできないことかもしれませんよね。
なんか「日本版CIAを作るべきかどうか」という話に近いような議論をしていますが・・・。
手塚 得てして日本企業の場合はそういうことをせずに、「自社の方に収益力がないのであれば、血と汗がにじむようなコストカットを行って競争力を上げよう」ということを考えるんです。相手との競争戦略ではなく自分の中だけで解決しちゃおうという内むきの発想だけなんですね。
運営者 それは確かにコスト競争力ではありますが、マイナス方向にしか考えていないように思いますよね。