「交渉術」の要諦とは
運営者 閉鎖系システムの中で、同業者はライバルではあるんだけれど、破滅的な競争は絶対にやらないわけです。ということであれば、本気になって相手のことを探る必要もないわけです。そういう緩い競争をやってたんでしょう。だから経営能力も磨かれませんよ。
どことは言いませんけれど、霞ヶ関が「お前たち喧嘩をするんじゃない」と言って数量制限をしていたような業界だってあるわけですから、そういう中では企業はライバル企業の腹の中を探るよりも、所管官庁と仲良くする方にエネルギーを使おうとしますよ。
しかしそういったスキルは、国内だけで競争している時は意味があったかもしれませんけど、国際競争をやらなければならなくなったら、まったく意味はなくなりますよね。
旧日本的システムというのは、ローカルルールというよりは談合ですから。
手塚 だから新しい生き方を探らなければならない。外的に与えられた構造や環境は、神さまに与えられた絶対不変なものではなくて、ある仮定の下でたまたま今そうなっているだけなのだから、いくらでも変えることができるわけです。
変えられるのであれば、「どのように変えるか」を考えるのが、本来の構想力がある経営者ではないのかという問題意識を持って、僕はゲームの理論を展開してみたんです。
運営者 それは、ビジネス上の交渉力についても全く同じことが言えますよね。手塚さんは1年に20往復以上、アメリカやヨーロッパにわたって、まさに交渉自体が仕事になっている必殺交渉人なんですが。
これは手塚さんの他の論文での指摘ですが、日本のビジネスマンが海外の交渉相手と交渉するときに、最初から「こういう条件でうちはやりたいな」という提案を行って自分が交渉の主導権をとろうとしないし、「自分には他にも取りうる選択肢があるんだよ」ということを準備しないし、交渉相手にも匂わせない、にもかかわらず交渉担当者は、「交渉をとにかくまとめよ」というミッションを与えられていて、交渉の取りまとめに失敗すると社内での立場が低下するという状況に置かれる場合が多い、というわけなので相手のペースに乗せられて損な取り引きをしてしまうケースが多くなってしまうということがあるわけですが。
手塚 そうなんですよね。これは極めて実践的な話です。交渉の要諦は、
先手必勝
Win-Winに持っていく
自分にとってのセカンドベストを常に考えて行動する
特に、1番最後の点ですが、もし交渉が決裂してまとまらなかった場合、日本企業の交渉者はネガティブに評価されて出世の道がなくなってしまうというところに問題があります。だから少々無理があっても、不利な条件でも交渉をまとめてしまおうとする。