交渉の目的自体が不明確だと譲歩しかできない
手塚 少々無理があっても、不利な条件でも交渉をまとめてしまおうとする。
なぜそうなるのかというと、交渉の目的自体がはっきりしていないからなんです。もし目的がはっきりしていれば、その目的を達成できないのに交渉をまとめてしまってはならないじゃないですか。
ということは、彼にできるのは譲歩でしかないし、自分の会社は彼にとって説得するべき相手になってしまうんです。たとえ中途半端な交渉結果でも、「ちゃんとまとめてきました。これがベストな結果です。」って。
運営者 僕はこれをこういうふうに読んだんです。
旧日本人は仲間うちのなあなあのの論理でやっているわけですから、ホントの交渉をやったことはなくて、実は彼らが日々訓練しているのは「調整」なんです。調整はお互いの利害が衝突して、どうしても取り分をあきらめなければないような場合に、とにかくあきらめなきゃいけないのは前提としてあるわけですから、「ではお互いがどのくらいマイナスを被るかを決めましょう」ということでしかないわけです。
しかし手塚さんが考えていらっしゃる交渉というのは、「プラスサムの状況にある場合の、Win-Winパートナシップをどのようにつくるべきか」という方法論なんだと思います。お互いの利害が衝突していても、ゼロサムではないわけですから、ペイオフ・マトリックスを組み替えて、お互いが得をする状況をつくりうる、そういう関係性なのではないでしょうか。
手塚 うん、僕が思うのは、日本企業の場合特に「何のために交渉しているのか」という目的がはっきりしていないですね。何を達成しなければならないかということがはっきり分かっていれば、交渉を担当している人間がやらなければなないことは明確なんです。
ところが実際の会社の中では、1つの方向にみんなが向いているわけではなくて、部署によって見ている方向がバラバラなんですよ。交渉担当者は、そのバラバラな目的を総合調整しながら、一方で相手との交渉を行わなければならないんです。
つまり、こちらから「この様なことをやりたい」と提案可能な組織的なコンセンサスはなくて、むしろ海外の交渉相手から何らかの提案をもらって初めて、「この条件ではここが得だ損だ」という話が社内でできるようになる。そこから右に行くか、上に行くかという話を始めるという感じでしょう。
運営者 自分たちのミッションがはっきりしていないから、組織としての統一見解をゼロベースからつくることができないと。
手塚 それだと、イニシアチブを敵に握られたまま戦いをやってるようなものなんです。最初の契約書ドラフトは自分の方で用意した方が有利であることは、実証的に証明されています。「アンカリング」と言って、交渉結果は最初のオファーから大きくかけ離れたモノにはなりにくいんです。