なぜ外国企業に交渉の主導権を取られるのか
手塚 それから、「ベストではないにしてもセカンドベストの選択肢は何か」ということもあらかじめ考えておかなければなりません。「セカンドベストよりも良い条件を相手が提示してきているのであるならば、それで交渉をまとめたらいいじゃないか」ということになりますからね。
その条件をさえはっきりしていれば、交渉者は自由に交渉することができるんです。
運営者 それはこちら側にとっての利得がすべて計算できていなかったら、はっきりさせられないことですよね。
手塚 相手と交渉していて、変な社内のあつれきにひっかかったら、自由な交渉ができないですよ。いつも、「先方がこう言ってるんだから仕方がないじゃないですか」という社内に対する言い訳をしなければならなくなってしまう。これだと受身の交渉になりますよね。
運営者 なぜ、外国企業のほうは、日本人がもたついている間に先手を取って提案ができるのだと思いますか。
手塚 外国企業が交渉の主導権を握ることができるのは、特にアングロサクソンの企業の場合は、交渉の目標が明確だし、権限ラインがはっきりしているから、交渉の前面に出てきている人たちが「自分たちにできるのはどこまでの範囲なのか」ということを明確に分かっている。組織の中のモヤモヤした力学がどうなっているかを理解して、交渉の場に望んでいるわけです。
交渉者自身が自分で判断できないことが何点かあったとしても、それは必ずトップに急いで伝えて瞬時に判断できるような体制で交渉に臨んでいきますね。目的は明確だからトップも「それはこうだ」と瞬時にレスポンスする。
運営者 そうすると、それを逆手にとることだってできますよ。「外国企業が日本企業の意思決定がどのようにしてなされるかを読む」のは相当に難しいけれど、われわれにとってみればある程度研究すればすぐわかりそうじゃないですか。
中国に行った時に、アメリカの調査会社が上海市の役人の組織図と顔写真が入った大きな一覧表を作っていて、「ここまで調べるのか」と驚いた経験があるんですが、考えてみればアングロサクソンのロジックでは、そのラインをはっきり知り、各々のプレーヤーの性格を重ね合わせるることによって、「どのような意思決定を下す蓋然性が高いかということをある程度推測しうるであろう」という観点に立ってあの一覧表を作っていたんだと思うんです。
しかし日本の役所に対してそのようなことをしてもほとんど無駄だと思いますね。
手塚 だれが本当に決めているかわからないからね。