相手に利得を与えなければ交渉はまとまらない
手塚 先方の方がより全体のパイを大きくする提案をしてきて、「だからお互いの取り分が多くなるでしょう」という話であるならば、まあおそらくは相手の方が有利になるような話を持ちかけてくるに違いないんだけれど、それでもなお自分もより得をすると考えれば、相手の案を取ればいいんです。そこまできたら「どっちが主導権をとるか」ではなくて、純粋に「自分が何を獲得できるか」に集中すればよい。
運営者 そうですよね、どちらにしても損をしないわけですから。
ところがね、旧日本人の人間関係の基本である支配=従属関係というのは、上位にいる強い者が弱い者に対する絶対的な支配権を持っていて、対等な関係というのは考えられないんです。
そうすると何が困るかというと、旧日本人には「相手に利得を与えなければ交渉はまとまらない」という発想ができないということですよ。
手塚 勝ったか負けたかということですからね。
運営者 ええ、それで勝った奴は総取りができるということです。
僕はフリーランスの立場なわけですけど、1人では何もできませんよね。そうすると何事でも誰かにお願いをしてやってもらわないと話が始まらないということがすごく多いんです。
その時に僕がいつも考えているのは、「相手に何を与えることができるか」、なんです。それ以外にはないんです。あげられるお金なんて知れてるわけですよ。それ以外の何かをあげられなかったら、相手は動いてくれないですよ。
手塚 それは重要なことなんだよ。「こちらだけが一方的に得して向こうが損する」などという話は、強迫とか詐欺でしかないわけであって、本来の意味での交渉ではないですよ。
よく、天気が悪くて「飛行機が遅れて会議に間に合わなかった」といって航空会社のカウンターの前で怒鳴っているおじさんがいますよね。航空会社の職員を捕まえて、「どうしてくれるんだ」、とやっている。
自分の怒りを発散するのが目的でやっているんだったらそれでいいんだけど、合理的に考えたらそれは不可抗力なんだから、どなったってどうにもならない。そこで相手と交渉して「どのようになれば自分はコンペンセートされるか、ほんとに欲しいものは何なのか」を考えるべきですよ。相手のマネージャーに詫びを言わせることなのか、アップグレードのクーポンをもらうことなのか、タクシー券をもらうことなのか。そういうものを交渉してもらってしまえばいいじゃないですか。
向こうにとってたいしてコストがかからないことだったら、気まずい思いをするよりも、さっさと出してくれますよ。