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日本企業再生戦略 3


日本企業再生戦略 

問題点 2 
人が解雇できない。
コスト削減の決め手を失っている

手塚 代表取締役名誉相談役
 2000.2.23

手塚  問題2ですが、そういう大企業で働いている人たちというのが実際は消費者でもあるわけでしょう。

運営者 そうです。

手塚  その消費者が自分の働いている会社がそういう消耗戦を繰り広げているということがわかって、「これはなかなか簡単にはもうかりませんな」とみんな思っているわけですよ。そうすると、自分の将来に不安が出てくるね。現実に先輩たちが関係会社に出向させられたり、早期退職を迫られたりしている。あるいは給料がなかなか上がらない、ボーナスがカットになる。最近、金融機関なんかは軒並み30%近くボーナスをカットしたりしていますね。そうすると将来に不安が出てくるから、消費は伸びないね。みんな守りに回っちゃう。

運営者 みんながタコ足配当をやっているタコ足社会であるということですな。

手塚  問題は、そういう現象が企業同士の競争の中で起きている一方で、もう少し企業の中まで見たときにはもっと深刻な問題が起きていて、それは人間のほうの話なわけですよ。
 もうからない理由のその二、それは抜本的にコストを削減する手段、特に欧米企業だったら必ずやる人切りということができないからですよ。

運営者 日本じゃ、会社というのは人が切れないんですか。

手塚  人を切ることがものすごく金がかかる。一時期、パイオニアという会社が突然、従業員の解雇をすると発表したでしょう。3年か4年前だったと思うけれども。

運営者 92年くらいですね。

手塚  このときに何が起きたかというと、もう新聞もマスコミもこぞってパイオニアの経営者を批判した。とんでもないと。従業員を解雇するなんていうことはやったらいけない、社会的に許されないといって責められたわけですよ。
 欧米だったら、そもそも従業員をレイオフしたり、解雇したりするということは日常的に行われているんだけれども、株主が会社の経営者にとって最も強い世論なわけですよ。何しろ株主が承認しないと役員になれないんだから。あるいは株主がだめだと言ったら、役員は首が飛ぶんだから。その人たちが株主に言われているのは「もうけなさい」ということだね。そうすると「コストを下げるために、あるいは生産性を上げるために従業員の首を切りました」というと褒められるんだな、アメリカは。

運営者 シンプルなんですね。会社のホントの目的ってもうけることだったんですねえ。

手塚  これは少なくとも市場主義経済、資本主義をやっている限り、会社というのはもうけなければ、ほかのいかなる社会的な役割も果たすことはできないね。まず第一義的に株主のお金、つまり資本をどこからか持ってきて、それを経営者は使うことを任されて、その中で利益を発生させて、まず預けた人に利益を返す。これが一義的な役割ですよ。さらにそのもうけの中から税金という形でその会社が活動している国なり、自治体なり、そういう環境を与えてくれる人たちに対して利益を還元する。これが2つめですよ。
 この2つをやった上で、どういう従業員の福祉とか、社会貢献とかをやるかという話であって、もともともうけていない会社というのは、その一番根本にある社会的役割を果たしていないんだね。

運営者 だけど日本じゃ、万年赤字の建設会社がサッカークラブをずっと支援していて、それで撤退すると言ったら、みんなに怒られて、袋だたきにされたりするわけですよ。今の話を聞くと、「年間10億ペースでよくも今まで出していただきました」と、株主に感謝していい。

手塚  それは利益を出すということが、実は今まで日本の企業の究極の目的になっていなかったのね。
 日本の企業の究極の目的というのは、安定的に自分のところの従業員に長期雇用を保証して、社会的な活動を続ける。つまり継続性と安定性と職場の提供、これが目的だったわけです。利益というのはその次の議論でね。

運営者 もうからないということがいま一つ深刻な感じを世間的に与えないのは、それが原因なんでしょうね。

手塚  それもそうだし、もうからなくても、たとえ赤字が出ても、含み資産という過去に蓄積した貯金を使えばつぶれないからね。つぶれてしまったら元も子もないんだけれども。
 だからパイオニアのケースなんかも、おそらく会社としては貯金を使って丸裸になるより前に、体力のあるうちに生産性を高めようということで従業員の数を減らすということを考えたんでしょうけれども、世の中はそうではなくて、人を切るより前にまず貯金を使えというプレッシャーをかけたわけだな。

運営者 あれは人事の世界ではよくやったと言われているんですよ。先端的ということで。ちょっと早すぎただけです。

手塚  だから日本は簡単に人が切れないし、切ろうと思ったら巨額の特別退職金とか、あるいは生涯賃金保証とかをしなきゃいけない。その手切れ金をたくさん払わなきゃいけないから、ものすごくコストがかかるんだね。
 アメリカの場合には、あるいは欧米社会の場合には、もうからなくなった企業は社会的役割を果たせないということがそもそも前提にあるわけだから、そういうところで大量の人を雇っているというのはむしろ非効率だと思われるわけだね。早くそういう職場から別な職場にそういう人的資源は移ってもらって、新しいところでそういう人たちは活躍してくれたほうがお互い、全体にとってメリットがあるということなわけですよ。
 IBMなんていう会社は過去5年間、ちょっと数字は忘れちゃったんだけれども、世界で40万人の社員がいたのね。それが今、20万人に減っているというんですよ。IBMグループは。ちょうど半分だよね。

運営者 その前は絶対、首切りをしない会社だったんですけれども。そんなことしてると、えらい業績が落ち込んじゃって。

手塚  何でIBMがそういうことをやらなきゃいけなくなったかというと、それまでの大型計算機と特注品のソフトをばんばんと売るということから、世の中がパソコンとネットワークの時代になっちゃったでしょう。だからもう全くコンピューター業界の業態が変わったわけですよ。だからもうIBMもそれだけの自己改革を迫られたのね。驚くべきことに、その40万人を20万人に減らす過程で、実際に10万人の新規雇用をしているんだよ。

運営者 へえー。じゃあ何、切った人数はもっと多いんだ。

手塚  30万人の首を切って、10万人雇って、トータル20万人になっている。つまり会社のある種、血液の総取っかえみたいなことをやっているんだね。そういうダイナミズムというのがあって、アメリカの会社というのは急激な業態あるいは事業環境の変化に適応していくわけです。
 日本の場合には残念ながら、大手の電機会社の中でそういうメインフレームのコンピューターをつくっている人たちを一斉にマーケットに出しちゃって、新たにパソコンを開発できる若いエンジニアを一斉に同じ数だけ採用するなんていうのはできないわけだね。まず大型コンピューターをつくっていた人たちに再訓練をして、パソコンもやってもらおうという話になってくるわけですよ。
 そうすると、だんだんと変化についていけなくなる、あるいは開発の時間がかかる。だから日本の企業は急激な転換にはものすごく弱いですね。

運営者 かつ、それで人材が切れないわけですね。

手塚  切れない、あるいは業態の変化に合わせて人を入れかえられないという宿命を背負った中で日本企業は活動していかなきゃいけないから、実は産業が変化して、要求している会社の業態と実際にそれにかかわっている人の配置というのはミスマッチが生じるね。これはやっぱり動かなくなる大きな理由、あるいはもともとマーケットが小さくなっているのに数が減らせないということは、一人当たりの収入は減る、利益が出ないという方向でしょう。

運営者 でも一応、、人材をそういうふうにして囲い込んでおくということは、日本企業の社員のほうにもメリットがあったんですよね、昔は。

手塚  今まではあったわけですよ。それは日本の企業の強みは、一生、人生を会社に捧げて、その中で経験とスキル、技を蓄積していく有能な社員というのを囲ってあることが競争力にものすごくつながっていたんだけれども、そのためのコストというのは終身雇用を保証するもろもろの会社の制度で払っていたわけですよ。
 でも、それはさっきから繰り返し言っているように、成長しているという世代の中ではそういうことをやっても全然問題なかったのね。逆に成長しているということを前提に、そういう会社にコミットしている社員をさらにコミットさせて、アウトプットを最大にするいろいろな仕組みを考えたわけですよ。それがみんな、日本の企業の中では制度として盛り込まれているのね。

運営者 例えばどういう制度が、大企業に社員を縛り付けているんですか?

手塚  例えば退職金なんていう制度が一番典型であって、30年間会社で働いたあげく、年収の2倍とか3倍の巨額の退職金を最後にご褒美としてあげますという制度があるわけですよ。  これは途中で、入社10年で自己都合で退職した人にはそんなものは出ない。ほとんど出ない。最後の20年とか30年とか勤務をする人にだけこういう巨額の退職金が出るシステムであるということは、つまり本来、若いころにもらっていなきゃいけなかった給料をずっと会社が溜めておいてくれて、最後に「はい、これだけたまっていましたよ」とぼーんとくれているようなものなのね。

運営者 何かあまりうれしくないですね。

手塚  「先出し後入れ」なわけですよ。これは合理的だったのよ。会社が伸びている場合は、今の時点で給料を出した分だけ見合ったものを全部もらっちゃうよりも、少しもらわずに取っておいて、30年先にものすごく膨らんだ形でもらったほうがいいわけでしょう。
 会社というのは、そうやって成長しているときというのは、今よりも30年先の会社の規模というのは大変な規模になって、利益も出せるようになって、給料の水準も上がって。そうすると、今、10万円もらうよりも、30年後に100万円もらったほうが助かるんだね。得するんだね。
 ところが、成長が鈍化して、ほとんど成長しなくなっている、あるいはもうからなくなってきているという状況だと、今出しているものの30年後のリターンなんて、だれも保証してくれないわけだね。会社の事業という、会社の付加価値生産あるいは会社の価値という、これはそれぞれの社員がやっている投資だよね。自分の人生と時間を会社に投資しているんだけれども、これの投資の利回りというのがものすごく減ってきているわけですよ。

運営者 それはそうでしょうね。もうかっていないわけだから。

手塚  うん。出したものは今もらっておかないと、「30年後により大きくして差し上げますよ」という退職金という制度は信じられなくなってきたと。退職金なんていう制度は長期雇用を前提にしているシステム。
 それから例えば企業がサポートしている住宅融資なんていうのは、町の銀行から借りるよりもはるかに安い金利で、それぞれの大手企業が住宅ローンを社員に金利を固定して融資しているわけですよ。これだって、一般に日本の住宅融資というのは、25年とか30年とか長期のローンを組むわけでしょう。ということは、首を切るというのはこのローンをどうするかという問題が同時に発生しちゃうわけですだって、ほかの会社に行くときにはそのローンを会社が肩がわりしてあげる理由はないんだから。

運営者 耳をそろえて返していただきましょうか。

手塚  そうそう。例えばバブルのころに6000万円のマンションを買っちゃったと。まだローンは4000万残っていますという人が、「さあ、この会社をやめてください」と言ったときには、どうやってその4000万円を返すかという話になる。
 町から借りればいいんでしょうけれども、金利がばーんとはね上がるね。そうすると安い金利で今の給料が保証されているから、6000万のローンがとれるはずだったのに、その金利がはね上がって、しかも首を切られて、収入が減ったならば、もう払えないわけですよ。
 悪いことに、買ったマンションとか家のそもそもの担保の価値というのも、今は半分ぐらいに減っちゃっているわけでしょう。ということは、仮にこの家は放棄します、売って借金を返しますといっても、売ってもせいぜい2000万から3000万にしかならないわけだね。そうすると、この人はどうしようもないわけですよ。
 だからやっぱり会社も首を切ることができない。できないというのは、切ったときに起きる問題というのあまりにも深刻。社員のほうも首を切られるということがいかに深刻かわかっているから、どんなことをしてでもしがみつきたいというふうになるわけね。

運営者 やめるにやめられない。

手塚  ということが起きるわけです。だから日本の企業組織というのは伸びているときはよかったんだけれども、今みたいな状況になってくると、会社の自由度をものすごく奪っているんですね。

運営者 そうすると、そのもうからない会社に大勢の人がぎゅーぎゅー詰めになって、ひしめいているという悲惨な状況になっちゃうわけですね。

手塚  アメリカでも実は幾つかの業種ではそれと同じような現象が起きていて、なかなか世界的な競争力を回復できない企業があるわけですよ。

運営者 例えば?

手塚  鉄鋼とか自動車ね。なぜかというと、こういうところはものすごく組合が強いわけ。
 アメリカの労働組合の活動というのは今、全米の労働者の20%ぐらいしか組合員になっていないので、かなり平均に比べたら下火なんだけれども、特に新しい産業のコンピューターとかソフトウエアとか通信とかの産業というのは基本的に全然組合なんかないわけですよ。だけど政府機関と鉄鋼労連、自動車労連、ここはものすごく強いんだね。この歴史的に強い労働組合を抱えている産業というのは基本的に組合との契約でもって首を切れないわけです。

運営者 アメリカ企業というのはどこでも首を切れるんじゃないんだ。

手塚  うん。切れない会社というのがあるのね。ホワイトカラーは実は切れるんだけれども、労働者の部分に関しては過去の歴史がいろいろあって、首を切れなくなっている。だから自動車会社というのはなかなか抜本的な競争力の回復、競争力をつけるということができずにいろいろと苦労しているわけ。




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