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日本企業再生戦略 5


カリフォルニア・ワイン紀行

解決策 1  含み資産経営から決別せよ。
企業は社会から人と資本を借りて収益を上げるのが仕事。
無駄遣いするな。

手塚 代表取締役名誉相談役

運営者 じゃ、問題点3つ。ヘーゲルじゃないけれども、3つ出ればいいとしましょう。過当競争とコスト削減、人材が切れないということと、そういうメンタリティーの問題。じゃ、一体どうすればいいんでしょうかという解決の方策についてお話しいただきたいと思います。

手塚  それは端的に言ってしまえば、もうかるようにするしかないんだよね。

運営者 いやいや、もうかるようになれば何の文句もないんですよ。

手塚  さっき言ったように、タイタニック号に新しいエンジンと新しいスクリューをつけると。ただし、これは今までのようにミッションが後ろから押してくれて、もうその流れに逆らわずにどんどん燃料を投入して、エンジン全開にすれば、前へどんどん進むという状況じゃないわけですよ。
 目の前には氷山もあれば、陸地もある。嵐も来れば、波もある。そういうときに臨機応変に自分が進むべき道を判断し、そちらの方向に進むというあらゆる制御機能、予測機能を持ったエンジンのつくりじゃなきゃいけないわけでしょう。

運営者 レーダーつきね。コンピューター装備。

手塚  こういう船にうまくつくり変えれば、少なくともまだ日本には技術力もあれば、それを生かしてきた人材もいるわけだから、成功しないわけはない。問題はどういうエンジン制御システムをつくれば、その船をまともに前に進ませることができるか。ここなんだね。

運営者 じゃ、要するに今、沈みかけのタイタニックの上でみんなまだダンスを踊っているわけですよね。

手塚  立派な宴会が行われているんじゃないですか。

運営者 沈みつつあるのを何とかうまいこと救いつつ、ハイテク豪華客船につくり変えるにはどうすればいいか。

手塚  難しいよね。一番簡単なのは、どこかの造船所に持っていって、一回ばらばらに分解してゼロからつくり直すことなんだけれども。

運営者 それ、いいじゃないですか。

手塚  それは船だったらできるけれども、社会というのはそれをばらばらに分解したときにみんなが死んじゃうからね。

運営者 踊っているやつらが「ドック」に行くなと言うしね。

手塚  何しろ今話してきているような問題をみんなが認識しなきゃいけないね。つまり「踊っている場合ではない」と。少なくとも船をドックに揚げて、ばらしてつくり直す。これは自分たちではできないわけですよ。何が起きるかというと、戦争でもやって国が完全に崩壊して、ゼロから占領政策か何かでつくり直す。そうでもしなきゃとてもできないハードランディングのシナリオだけどね。
 これは少なくとも日本の経営者あるいは日本の指導者たちがみずから考えるシナリオじゃないね。それは何といっても、船に乗っている人たちの手でどうやってつくり変えるかというのを考えなきゃいけないわけでしょう。その中でも宴会を続けていたら、そんなことはできないよね。

運営者 とりあえず日本と考えずに大企業と考えたほうがいいですね。

手塚  それはそうだね。大企業は日本の縮図でもあるんだけれども。
 そうすると、まずは大企業の中で成長を前提とし、あるいは過去の遺産を食いつぶしてでも今の状況、今の経営システムをそのまま維持しようという発想を捨てなきゃいけないね。

運営者 あっさりおっしゃいますけれども、なかなか難しそうですね。

手塚  私が捨てなきゃいけないと言うから、捨てるという人はいないでしょうけれども、所詮、捨てなきゃいけなくなるんだから、あとは捨てなきゃいけなくなったから捨てるのか、捨てなきゃいけなくなる前に捨てるのか。その違いだと思うんだけどね。

運営者 どのように捨てるんです?

手塚  それは一つは、そういう日本の大きな企業が、実は消耗戦になるかもしれないと思いながらも人と同じような投資をしたり、あるいはもうからなくても何とか抜本的な改革をしないでも、あるいはもうからないでも生き長らえることができている大きな理由というのは、やっぱり含み資産があるからなんだろうな。含み資産を持っていなければできない経営から、含み資産を持っていなくても、きちんと日々のオペレーションから富を生み出して、その富を使って成長していくというシステムに切りかえなきゃいけないね。

運営者 含み経営との訣別ですね。

手塚  うん。さっきから言っているように、どうせそうなるんだから、今からそういうことをみずからの判断でやるべきでしょうと。それにはやっぱり含みというものを全部表に出すんだね。

運営者 「含みを全部表に出す」というのは、具体的にどういうことですか。

手塚  つまり企業が実際の生産設備あるいは遊休資産等で持っている資産の時価会計というのを導入して、30年前に1平方メートル100円で取得した土地が今、100万円になっています。そうしたらもう百万円で資産計上するべきなんですよ。
 それで問題は、100万円の土地の上で行っているビジネスがちゃんとその土地の価値に見合っただけの利益を生んでいるかということで経営の善し悪しを判断していくようにならなきゃいけないね。

運営者 これはそういうふうに単純にやっていいんですか。

手塚  あくまで企業というのはどういう価値を生んで、その価値を利益に変えられるかということで企業の存在の意味というのが問われる。そうだとすると、使いもしない資産を、しかも持っているんだけれども持っていないように見せて後ろにしまっておいて、いざ都合が悪くなったときだけ、それを表に出してくるというのは、経営に対する緊張感が生まれないね。
 あるいは何としても表面の自分の本業であるビジネスで利益を出すというインセンティブが生まれないね。あるいはもっと言うと、日本全体で見たときに、そうやって大手の企業が含み資産と称する隠し財源あるいは打ち出の小づちを後ろに持っているということは、本来ならだれか別な経営者が来て、その資産を使って、より大きなビジネスができるかもしれないわけでしょう。
 たまたま持っているんだけれども全然使わずに、あるいは駐車場か何かにして塩漬けにしている土地。これをビジネスに変えることができる、その上で何かビジネスができ経営者に使ってもらったほうが、日本全体にとっては経済が回るわけですよ。だけど今はそういうふうになっていない。
 だから本来そういう価値があるものを取得原価でもって後ろに隠しておけるという日本のシステムそのものがこれを可能にしているので、やっぱり制度的にそれぞれの企業が今現実に持っている資産の価値をきちっと表に出して、それに基づいてどういうビジネスをやっていて、そのビジネスからどういう利益が出ていて、だからその企業はどういう付加価値を生んでいるのかというメカニズムに変えなきゃいけない。

運営者 その背景にある思想というのは、企業は人とか物とか土地を社会から借りて、それを回すことで収益を上げてやっていくという、そういう社会的な役割があるということですよね。それを日本企業もきちんと認識して、企業市民として活動するようにしなかったら、世間様に対して申しわけがないと思わなければならないということですね。

手塚  そうそう。要するに人がうらやむような立派な資産をこっそり持っているにもかかわらず、それを使わずにいざというときのための保険にとっておくというのは、その企業にとっては楽かもしれないけれども、今のように日本経済全体が成長できなくて困っているというときに、貴重な資源をむだ遣いしていることになるんだね

運営者 それはけしからんということですね。

手塚  うん。それは一つありますね。

運営者 何かうまい表現がないかな。例えばやっぱり役所が都心に非常に広くて高級な宿舎を建てているのはけしからんとよく批判されるんだけれども、それがなぜいけないのかという理屈がないんですよね。

手塚  それはそういう行為から付加価値が、とりあえずそこに住んでいる役人たちがそれでもって生活が安定、保障されて、それでもっていいアウトプットを出せるという理屈はあるかもしれないけれども、しかし経済の立場で見たときには、それはGDPに寄与しないわけだよね。

運営者 役所はGDPにほとんど影響していませんよ。

手塚  それを言ってしまったら元も子もないんだけれども。

運営者 いいですよ。だって役人が一生懸命働くということは、すなわちGDPがその分下がるということを意味するんですから。

手塚  それも元も子もないけれども……。やっぱりそういう資産、土地にしても、お金にしても、実は人材もそうなんだけれども……。

運営者 人材はいちばん重要ですよ。

手塚  使わないで、あるいは有効に活用しないでとってある、あるいは大きな企業の、大きな組織の中に人質にしてあるという構造というのは、みすみす日本の経済がもしかしたらもう少し伸びられるかもしれないというチャンスを奪っているわけだよね。

運営者 機会利益を逸していますね。

手塚  一方でそういうことをやり続けるために企業は過去に積み上げた貯金、含み資産を含めて少しずつ、今使い尽くしつつあるわけね。

運営者 それはそんなばかなことをやっていれば、国際競争に負けてパフォーマンスが悪くなるから、含みを吐き出さなきゃいけないんですよ。

手塚  そうすると、これはどこで付加価値をつくっているんですかという話になっちゃうよね。

運営者 付加価値はなくてもいいというのが今までの理屈だったんです。

手塚  過去につくった付加価値の蓄積を今、急激にこの5年間ぐらいで使い尽くそうとしているという。これはだめだよね。やっぱり何としてもそこにトラップされている、いろいろなわなにはまっちゃって身動きがとれなくなっているいろいろな経営の資源、それは土地であり、技術であり、人材であり、資本であり、こういうものを一たん解放して、それらを利益、あるいは付加価値をつけることができるマネジメントの手にゆだねなきゃいけない。そういうことができれば、日本にはまだ使えるだけの経営資源はいっぱいある。人もうらやむような資源がいっぱいあるわけだ。

運営者 これをはかる指標というのはやっぱりROEが一番いいんですかね。

手塚  そうでしょうね。あるいはROAでもいいかもしれない。資産に対する利益率あるいは資本に対する利益率。いずれにしても投入しているインプットに対してどれだけ付加価値をつけられたかということでもって判断しなきゃいけないでしょうね、その経営の優劣というのを。

運営者 そういうのは地に足がついていない、ほとんど宇宙の話ですな。今の現状からいくと。

手塚  効率の悪い会社に大量の人間がそのままいて、たまたまその会社は、さっきの消耗戦を繰り広げながらも何とかその社員に給料を払い続けて、何とか雇用不安、社会不安を起こさせないようにある種の社会政策をやっているというのはいつまでもできないのと同時に、やるべきでないことだと思うんだよね。
 なぜならば本来なら、人的資源を含めてそういう資産というのは有効に活用すれば、何か付加価値を生んだかもしれないものを、そこに縛っておくがゆえに、ほかの成長機会を奪っているわけでしょう。
 だから日本では失業というのを完全にネガティブにとらえているんだけれども、日本の社会を組み直して、過去のエンジン、スクリューシステムから新しいエンジン、スクリューシステムに切りかえるプロセスの中で、やっぱり資源の再配置というのをやらなきゃいけない。それは新しいシステムに向けての必要な痛みなんだよね。

運営者 そうですね。

手塚  失業しなくてもいいんだけれども、いったん、人材の再配置というのをやらない限り、今のシステムでやっている限り、昔のタイタニックのままなんだから。

運営者 日立なんかノーベル級の学者が10人も20人もいるのに、これまたうそみたいな低い給料で使って、かつ本人も自分の得意なことができないものだから、ノーベル賞もとれないし。僕なんか日立株持っているけど、過去8年以上含み損があったですね。まあ、こういうことになるわけですよ。何とかせいということですな。含み経営というのは、不動産とか株だけじゃなくて、人材の含みについても吐き出さなきゃ。

手塚  そうそう。やっぱり使い切れていない資産を持っているというのは非常に社会的な悪であるという考え方に発想を転換していかなきゃいけないんでしょうね。
 ただし、さっき言ったように実際にそれをやろうと思うと、足りなくするようないろいろな縛りが日本にはある。だからそこがもう一つ先の問題なのね。実行計画の部分にものすごく大きな問題がひそんでいるんですよ、この議論は。

手塚  何しろ今話してきているような問題をみんなが認識しなきゃいけないね。つまり「踊っている場合ではない」と。少なくとも船をドックに揚げて、ばらしてつくり直す。これは自分たちではできないわけですよ。何が起きるかというと、戦争でもやって国が完全に崩壊して、ゼロから占領政策か何かでつくり直す。そうでもしなきゃとてもできないハードランディングのシナリオだけどね。
 これは少なくとも日本の経営者あるいは日本の指導者たちがみずから考えるシナリオじゃないね。それは何といっても、船に乗っている人たちの手でどうやってつくり変えるかというのを考えなきゃいけないわけでしょう。その中でも宴会を続けていたら、そんなことはできないよね。

運営者 とりあえず日本と考えずに大企業と考えたほうがいいですね。

手塚  それはそうだね。大企業は日本の縮図でもあるんだけれども。
 そうすると、まずは大企業の中で成長を前提とし、あるいは過去の遺産を食いつぶしてでも今の状況、今の経営システムをそのまま維持しようという発想を捨てなきゃいけないね。

運営者 あっさりおっしゃいますけれども、なかなか難しそうですね。

手塚  私が捨てなきゃいけないと言うから、捨てるという人はいないでしょうけれども、所詮、捨てなきゃいけなくなるんだから、あとは捨てなきゃいけなくなったから捨てるのか、捨てなきゃいけなくなる前に捨てるのか。その違いだと思うんだけどね。

運営者 どのように捨てるんです?

手塚  それは一つは、そういう日本の大きな企業が、実は消耗戦になるかもしれないと思いながらも人と同じような投資をしたり、あるいはもうからなくても何とか抜本的な改革をしないでも、あるいはもうからないでも生き長らえることができている大きな理由というのは、やっぱり含み資産があるからなんだろうな。含み資産を持っていなければできない経営から、含み資産を持っていなくても、きちんと日々のオペレーションから富を生み出して、その富を使って成長していくというシステムに切りかえなきゃいけないね。

運営者 含み経営との訣別ですね。

手塚  うん。さっきから言っているように、どうせそうなるんだから、今からそういうことをみずからの判断でやるべきでしょうと。それにはやっぱり含みというものを全部表に出すんだね。




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