解決策 2
体力消耗戦をやめるために、合併淘汰を促進せよ。
保護政策をやめろ
手塚 代表取締役名誉相談役
運営者 じゃあ、どうすれば含み経営をやめられるかという細かい話はちょっと話が長くなりそうなのでおいておいて、ほかに、会社をもうかるようにする手はありますか?
手塚 日本企業が異常な消耗戦をすることによって過当競争が続いて、もうからなくなっているということを解決する一つの方法というのは、しかも実はこれはアメリカなんかで日常茶飯事に行われて、なおかつ最近特にこの傾向が強くなっているやり方というのは、競争を排除する。つまり、ある種の独占の方向に業界が進むということなんですね。
運営者 どういうことだろうな。
手塚 つまり一つの街で、ガソリンスタンドが10軒ひしめいて闘っているというやり方ではもうからない。だったら、ガソリンスタンドを合併させちゃって、2つにしちゃったらどうですか。
2つにすれば、少なくとも利益がゼロになるところまで競争はいかないで止まるわけですよ。お互いにこれ以上やったら死ぬとわかったところで競争を止める。これはもちろん完全にカルテルをやったら消費者にとってデメリットが出ますよ。だけど2社の間での競争というのをやったあげく、合理的に価格が下がったところで、しかしまっとうな利益を上げられるところで競争がとまるというのは当然のことなんだよね。
実際、アメリカの自動車会社なんていうのは、1920年代に三十何社あったというわけです。それが最終的にはあの五〇年代にビッグスリーという3社になっちゃったわけでしょう。
運営者 アメリカンモータースが入っていないじゃないですか。
手塚 ああ、そうだ。で、最終的には3社になった。それは合併と淘汰の荒波をずっと繰り返してきて、最終的にビッグスリーになって、その中での競争をするようになった。彼らはもうかったわけですよ。というのは、もうからなくなるところまでは競争しないんだね、3社でやっている競争というのは。
ところが日本では半導体業界で20社、あるいは自動車業界には、今完成車をつくっているのが10社ぐらいあるのかな。鉄鋼業界は大手が5社、その他オーディオイクイプメント業界は25社あると書いてあるね。こういう人たちが強烈な競争をやっている限り、これはなかなかもうからないね。
運営者 もうからなくなったら、「これじゃあほらしいからやめよう」というのが正常な考え方では。
手塚 撤廃、淘汰、合併、こういうことをやって、競争の水準を少し下げるということがやっぱり必要なんじゃないかしら。
運営者 確かにどういうルールをというか、方法によって行われるんですかね。合併、淘汰。淘汰というのはつぶれちゃうということでしょう。
手塚 実際に弱肉強食と言われているけれども、ビジネスがもうからなくなって、なおかつ含み資産等の打ち出の小づちが尽きてしまえば、それは淘汰されてしまうわけですよ。
これは一番社会的にはネガティブなインパクトが出てくるやり方なんだけれども、そこまでいかないまでの段階で戦略的にポジティブにやろうとすれば、それはやっぱり合併でしょうね。
こんな無益な争いはやめて、とにかく2つくっついて、そのかわり、くっつくことによって発生するリダンダンシー、重複しているいろいろな会社の機能とか、間接部門とかを合理化して、より少ない人数で、より少ない資源でもって同じだけのものを出せるようになれば、これは生産性が上がるわけだから、もうかるようになる。もうけることができる。
運営者 しかし合併されちゃった側の株主って悲惨ですよね。
手塚 それは必ずしもそうじゃないんじゃないの。なぜならば、もともと株主というのはリスクを背負っているわけですよ、その会社のオーナーとして。その会社がその業界の中で競争力が落ちてきていれば、合併されざるを得ない。吸収されざるを得なくなったわけでしょう。それは株主として当然払わなきゃいけないコストなんだね。
運営者 なるほど。
手塚 それが嫌だったら、株なんていうものに投資しないで銀行に預けて、確実な金利でももらっていたほうがいいわけでしょう。それはわかっていて株の世界に入ったんだから。
運営者 そういうふうな形で徐々に過当競争がなくなっていくと、国際的な競争力もつくということになりますかね。
手塚 ただそれが難しいのは、日本の国内だけでこういう淘汰、合併をやって間引きを行うというだけでは、おそらく必ずしも国際競争力をつけることにはつながらない可能性があるね。というのは、今世界で起きていることは、アメリカはアメリカ、ヨーロッパはヨーロッパ、日本は日本でそれぞれの市場があって、その中で3社、5社が競争しているという時代が終わって、マーケットはグローバル化しちゃったわけですよ。
そうするとIBMとかマイクロソフトとか、あるいはマクドナルドでもいいかもしれない、彼らにとって市場というのはもう全世界なんだね。
そうすると、今までアメリカの中で3社である程度平衡状態になって、そこそこもうかり、そこそこ競争できるといっていたのが、世界に目を開いてしまうと、自動車会社だけでも日本だけでも10社近くなるのに、世界で見たら30社とかそういう数になっちゃうわけだね。今までアメリカ国内で3社で競争していたのが突然、30社を相手に闘わなきゃいけないという状況になっている。
だから今は世界的な企業の合従連衡。例えばダイムラーがクライスラーを買収しましたなんていうのは、世界でいうグローバルなマーケットの中で適正の数の、競争が維持できるような数の会社群に集約していこうという動きが起きているんですよ。
運営者 ということは、国内でさっき考えた淘汰なり、合併なりというのを世界的な規模でやっているということですね。
手塚 ですから、そうやって世界のグローバルなマーケットで闘っていかなきゃいけない企業の場合は、国内だけでの合従連衡ではなくて、もう国際的な国境を越えた合従連衡というのの中に、巻き込まれるというよりはみずからの意思で加わっていかないと、最終的にグローバルなマーケットで生き残れる5社とか6社とか、こういうグループの中に入れなくなる可能性かあるね。
運営者 それはなんでもつき合いでやっていたのではそうなっちゃうでしょうね。
手塚 やっぱり日本という狭いマーケットの中だけでの淘汰では多分終わらないでしょうね。
運営者 きょう、ベンツのジープを見ましたよ。世も末ですな、こりゃ。(笑)
手塚 でもそれはベンツという会社ですらそういうことをやって、世界のマーケットに受ける車をつくっていかなければいけない時代になっているということだよね。