解決策 4 開発も投資も、人と違うことをやれ
手塚 代表取締役名誉相談役
運営者 さて、その次はと。この過当競争、体力消耗戦をどうすればいいのか。ガソリンスタンドの無益な競争にピリオドを打つにはどうすればいいんでしょうか。
手塚 これは一番、解決が難しい。なぜならば、日本人の考え方とか人生観みたいなものを少し変えなきゃいけなくなってくる。すごく難しい問題だと思うんだけれども、やっぱり「人間の価値をちゃんと市場で評価できるような」制度にするなんていうところから変わってくるんじゃないのかなという気がするんだよね。
だって、個々人にとって、自分が高く売れるというのはやっぱり人のできない、あるいは人よりもすぐれたことができるということを説得しない限り、そこそこの給料で止まるまっちゃうわけでしょう。個々人のレベルで人と違っていること、ユニークであるというとは得することなんだという考え方が出てくれば、例えば企業のレベルでも人と同じ製品を売っているんじゃなくて、ユニークなものを売るべきなんだ、新しいビジネスを始めるべきなんだという考え方がそういう人たちの中から自然と出てくるんだよね。
日本の場合、おもしろい例を引っ張ると、ちょうどさっきの部分に入れたほうがいいのかもしれないけれども、一時期、ふるさと創生運動なんていうのをやったときに、全国津々浦々、もう各県はもとより市町村に至るまでコンサートホールを建てたというのがあるわけだね。
運営者 竹下首相の時のばらまき財政ですな。たしかあれは宮城県にバッハホールというのができて、その後はわーっと広がったんですよね。
手塚 これは「ほんとうにこの町にこんなホールが要るのかいな」と思うようなところに立派なパイプオルガンを持ったクラシック専用のコンサートホールなんていうのができちゃうわけですよ。ある種のブームでね。これでもって建設会社がかなりもうかったかもしれないんだけれども、問題はそういうものをみんなで建ててしまうと、その効用というのはものすごく減るわけですよ。
もし宮城県のバッハホールだけがそういうホールであったらば、かなりの人がバッハホールへ聞きに行くためにわざわざ出かけたりして、宮城県の価値も上がっただろうし、ホール自体もハッピーだったと思うのね。だけど、みんなでつくっちゃったために、これはさっきの過当競争をやっているわけだ。発想が極めて貧困なんですね。だれかがやると、それと同じことをやろうと。
運営者 みんなまねしちゃう。
手塚 しかもだれもまねできないようなものをつくろうというところまではいかない。