ソニーはやっぱり進んでいる
運営者 そうすると、今大企業が戦略的に自社の、あるいは自分の商売のリバンドリングをやる動きっていうのは、なかなかないでしょうか。
田中 いやいや。そこをかなり意識してやってる例っていうのは、少数派ながらあってね。ソニーなんかそうです。あそこは数年前に「ネットワーク・カンパニー」っていうのを言い出した。これは新しい考え方に基づいて、組織の組み替えをしようということですよ。
形態や機能による部門区分をやめて、例えばホームネットワークカンパニーは、ホームエレクトロニクスとかコンシューマ・エレクトロニックスに関係のありそうなものについては、全部そこで担当するということ。「家庭におけるエレクトロニクス」という区分もある得るということですね。
これは、ホームエレクトロニクスというドメイン全体について、今やってないことも将来可能になる技術を見ながら考えていくという仕事なんですよ。今までの組織区分は、テレビとかオーディオだったんだけど、これからの新しいネットワークに対応できるように組織を組み替えるわけです。
テレビもオーディオも、ネットワークでそのコンテンツが供給されるものは、ホームネットワークカンパニーに括るわけですよ。
運営者 その時に、人材戦略としては、何を注意してやるべきでしょうか。
田中 今、そのお手伝いを当社でやってるんだけど。従来の日本企業は「うちの社員には、こういうリターンを与えます」ということでした。しかし今後は技術がどんどん変わっていくなかで、いろいろ新しい仕事が出てくるはずなんです。
したがって仕事もどんどん変わっていく。その仕事に報酬を払うようにするわけです。その仕事にたまたま誰が就こうが、それは誰でもいいと。その仕事をちゃんとやってくれたかどうかで払うだけです。
運営者 なるほど。今までの給与の認識って、変えなきゃいけないと思ってたんですよ。つまり、「だいたいこの会社に入ったら、年収は35最で1000万くらい」っていうイメージや期待があって、人は生きてきているじゃないですか。
田中 それがいわば「人に払っている」という言い方、いままで給料は人に払ってきた。だからそれを「成果主義に切り替えたい」と言ってるわけですよ。そういう意味で言うと、今までだってソニーは成果主義だったんです。どういうのが成果主義かというと、仕事をよくやってる人には、ちゃんと報いるっていう考え方です。
今やろうとしてるのは、その人がよくやったか、よくやってないかということ以前に、会社として経営として「今このビジネス環境の中でこういう仕事がある。で、その仕事をやってもらわないと困るんだと」いう、切羽詰った、差し迫った期待だとか要求がある。それをやってもらうには、「その仕事はこの程度だから、これだけ払わなくちゃいけない」。だからその「仕事に対して払います」ということなんです。
もうそれだけであって、たまたまその仕事をやってる人は、それを貰うかも知れないけれども、その人が他の仕事に移ったら、今までやったその仕事とは全然位置づけの違う仕事なので、前の給料と関係なく給料が下がるということは当然あるでしょう。
今まではその人について見た時に、給料はだんだん上がっていくとか、どんどん良くなるとかという、給料が持っているメッセージみたいなものがあったんです。「あなたに対して、だんだん良くしてあげるよ」とか。
運営者 だから、一旦下がった日には、「これはもう大変な左遷だ」と。あるいは同期の人間との格差がついちゃいますから。
田中 給料が下がるというのは、「これは罰だ」ということですね。「だけど、会社は決して悪いようにはしない」と。要するに給料の額によって伝えられる、社員への何らかのメッセージがあって、それに社員側は一喜一憂していたわけです。
だけど今後は、それはもう一切なくして、「いま会社の経営にとって必要な仕事に対して払う」ということ。結果として、社員にとっては「給料の額の変動が多い」とか、「先が見えない」とか、そういうことはあるでしょう。
ある意味じゃあ給料についての考え方を180度変えてもらうという、そういう言い方ができるでしょうね。
運営者 もし社員の仕事に対する意識がそういう考え方になっていれば、最初に考えた出版社の事業見直しも、かなり簡単にできるはずなんですけどねえ……。
(この項終わり)
このインタビューは2000年に行ったものです。内容が古くなっている可能性があります。