リバンドリング:金融業界の場合
運営者 今申し上げたのは、日本で一番遅れている出版業界というのを譬えにとったケースなんですけれど。他の業界で、こういうふうなリバンドリングに取り組んでいる企業がありますでしょうか。
田中 いつも、リバンドリングみたいな話をしてるのは、金融業界ですよ。要するに、今までは金融機能の縦割りで業界が構成されてるでしょう。証券ブローキングだとか、決済銀行だとか。そういう機能で業界が出来ていたんです。
運営者 そうですね。
田中 それはもはや意味がなくなりつつあって、それは例えば、インベストメント・バンキングとか、プライベート・バンキングとかいう、いわばマーケットの需要に沿った業界編成になりつつあるわけですね。ならなきゃいけないっていうかな。という状況なんで、リバンドリングという言葉は、ビジネスの組み替えという意味でみんな使っているけど、金融業界で一番よく使われている言葉です。
で、私はそれを人材についてもやんなきゃいけないと思います。
プライベート・バンキングだと、富裕層の個人を対象にして、資産ポートフォリーをきちんとつくるために、債券も欲しい、株式も取引したい。だけど一方で普通の預金もあるかもしれないし。あるいは全然違うプロジェクト・ファイナンスに参加するというのもあるかもしれない。
運営者 それはかなりすごい金持ちですけどね。
田中 そういう金持ちはいるわけですよ。そこに対応できるような相談相手になる金融マンが、今まで日本にはいなかったわけです。外国の場合にはモルガンスタンレーだとか、ゴールドマンサックスとかありますが。
運営者 プライベートエクイティ部門を持ってるようなところですね。
田中 そういうふうに金融界は、今まで規制で押さえ込まれていたから、それが外れた途端に、本当は本来の姿なのかもしれないけれども、マーケットの需要に沿った形に、もう総組み替えが慌てて行われているし、あるいはやろうとしてる。
運営者 その場合に、社員の側に選択肢が与えられるってことは、あまりないですよね。
田中 そこについては、なかなか本人に選択肢を与えるっていうわけにいかないですよね。
運営者 それはスピードの問題ですか。時間がないってことになっちゃいます?
田中 多分、一番大きいのはさっきの話と同じで、もう長いこと違う分野で仕事してるから、30代も半ばになって新分野には移れないとかね。
運営者 それはでも、過去に「ユニバーサル・バンキング」を目指したっていうツケだと思うんですよね。やっぱり細かいサービスはプディックでやるべきことであって。
田中 専門性が育ってないから、みんな自信がないんでしょう。
運営者 そんなんで組み替えをやったって、企業間競争に敗けると思うんですよね。非常に厳しい状況ですよ。
田中 厳しいね。
運営者 結局、金融がリバンドリングせざるを得なくなったのは、べつに競争力強化のためではないと思いますね。理屈を言うと、集約をしなければ生き残れないことが明らかになったから、外的なプレッシャーでやっているという感じがします。
田中 足し算して、合理化をする。そうやって規模の利益を求めるというのが基本にあるかもしれませんね。