債務免除の主張には正当性がある 日本ビデオニュース社長 神保哲生氏
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神保 日本では債務帳消しのことは書かれていない、前回のサミットを伝えた新聞の一面には。
その債務帳消しの議連というのは、共産党、民主党を中心にして、実際に組織されてるのがあるんだけど、3月末に小渕首相に申し入れをしたんだよ。でも小渕自身が、完全にこれに対して正しい認識を持っていなかった。「ケルン・サミットの決定事項を尊重する」って言ってるんだけど、その決定内容について、完全にフィルターが掛かった情報だけ官僚からあげられちゃってるわけ。だから、このままだと駄目だな。
3月末にイギリスのその代表が来たんだよ。ブレインになってる、ハーバード大学のジェフリー・サックスっていう経済学者も一緒に来てて、小渕と会ったわけ。でもとにかく全く小渕が認識を持っていないんでね、それは97年の地雷の時と一緒。小渕が外務大臣で、最初全然認識持っていなかったんだけど、なんじゃかんじゃ外国から人が来て。小渕は腰が軽いから会うことは会うんだよ。会ってるうちに、「どうこもこれは聞いてた話と違うぞ」という話になってきて、やっと動き始めた。
小渕がよかったのは、やたら秘書が5人くらい前に出てきて、それをクリアしないと会えないという感じではないところ。それが、地雷の時には功を奏して、ジョディ・ウィリアムズとか、長野オリンピックの聖火ランナーとかやって来て小渕外相に会って、話してみたら、「どうも官僚からの話と違うぞ」ということが、多少わかり始めたのが夏ぐらいからだよね。なんとか12月ギリギリに間に合ったという。
あれは日本では非常に珍しく、完全に官僚の頭越しに政治がイニシアチブを取ったケース。けれども今回、現時点では沖縄が7月ででしょう。3カ月じゃ、きつい。
運営者 間に合わないかも知れない。
神保 そうなると、シアトルの時と同じで。
運営者 航空会社が儲かりますな。
神保 航空会社はバージンとかが多分、ただキップとかあげちゃうよ。こういう話なんだよ。
運営者 ほんとう?
神保 だってさ、U2のリード・ボーカルのボノとかパパロッティとか、みんな全面的に乗ってるんだよ。それで日本ではNGOが弱いから、「誰かセレブリティ欲しい」ったらさ、イギリス経由で坂本龍一が今度乗っかったんだよ。
これ、つまり、日本では誰も引っ張れないから、ボノかボブ・ゲルドフってバンドエイドやった奴、あの経由かなんかで、坂本龍一のところに行って、「やりましょう」とかいう話になったっていうんだけど。一般の人が興味を持ってくれるっていう意味では、それって結構大事なのね。
地雷の時のダイアナ妃と一緒ね、やっぱりこの前の地雷の時に主婦までが「やだわ、地雷って」って思ったのは、ダイアナがワイドショーに出たっていうことが、悲しいかな、大きいわけ。俺がどんなに一生懸命取材して、「どうやこれは」っていうものを作っても、おばさんたちは「怖いわ」くらいで終わりなんだけど、ダイアナが現地に行って、地雷の被害にあった子供を抱いてるのを見た瞬間に、「地雷はやっぱりよくないわ」ってみんな思うんだ。これがまあ現実だわ。
アメリカ、イギリスでは一般の人を動員するため凄いノウハウを持っている。彼らの凄いところはPRだけに依存するんじゃない。例えば、ジェフリーサックスを全面的に引っ張り込んで、もう理論武装から何から完璧的にやっている。ローマ法王もデイビッド・ロックフェラーも、「ミスター・ビーン」のローワン・アトキンソンまで名前を連ねているんだよ。おまけに、その運動のタクティクスも非常に洗練されてて、政治家にとっても「協力することが損にならない」とメイク・センスする形をつくっちゃう。
彼らは、企業にとってもNGOに協力することが最終的にはボトムラインにプラスになるような形に持っていく。抵抗すると、政治家も損をするし企業も損をするし、という形を作ってるんだよな。それはやっぱり、一日の長どころか百年の長であるっていう感じがする。
運営者 それって、どういうふうにして辻褄が合うんでしょうね。社会的にとか、全世界的な経済計算の上では、「多重債務国が国家借金を棒引きにして、彼らがまた再び生産性を復活させて、経済活動をやってくれたほうが、先進国もプラスになるよ」っていうふうな計算の上に乗っかっているということなんですかね。
神保 勿論、経済再建の話っていうのは、次に出てくるんだけれども、それ以前の問題だよ。
地雷の時も、軍縮問題で議論しようとすると、グレーゾーンの話になる。つまり地雷っていうのは効果がゼロじゃないから。「なくなっても全然OKですよ」っていう話にはならないわけですね。
地雷問題の根底は「人類として、これだけの大きな人道問題の元凶=地雷を廃棄するだけの正当性は、十分にある」ということなんですよ。「地雷に何も意味がないから、捨てよう」っていうんでは、「いや、地雷にはこういう意味がある」っていう話がいくらでもできるわけ。意味はなくはないけれども、まず絶対不可欠なものではない、インディスペンシブルではないということを議論しなければいけなくなってしまうし、「地雷がなくなると、国家安全保障がもう危うい」っていうことになると話が駄目になってしまう。
それがね、まず代替可能である。不可欠なものではない。ただ「一定の効力はあるだろう」と、一定の効力を認めた上で、「それを廃棄することによるプラス・マイナスと、地雷を持っていることによる人道的な問題というのを天秤に掛けて考えてご覧なさい」と。それは軍人のレベルで考えても、一般の市民レベルで考えても、どっちで考えても、確かに人間としてメイクセンスするのは、地雷を廃絶することだっていうことは、感情的な議論ではなくて、情報さえちゃんと与えられていれば、難しいことじゃないんだよ、実は。今回もそういう問題で。
運営者 人道問題なのか。経済的な天秤では量れない話になってくるんですね。
神保 ぼくは今、環境と経営の対立のテーマを今追いかけてる。経済の中にも人道や環境というのを、いかに組み込んでいけるかっていう事が、21世紀、人類がマジに生き残れるかどうかの鍵なんだよ。つまり、「経済は大事、こっちも大事で、両方やろう」なんて話じゃなくて、いかにそれを取り込んでいけるか。
発想としては、むしろ、人道や環境に経済を取り込んでいくという発想なんだけど、企業側の人たちにわかってもらうためには、「経営や経済にいかに、人道や環境を取り込んでいけるか」という説明の仕方じゃないとね。経済と人道のどっちが主で、どっちが従かという問題では、多少軸足を経済に置いてあげないと、向こうの人たちはテーブルに乗ってこないからさ。
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