三菱商事vsカリフォルニア・コククジラ 日本ビデオニュース社長 神保哲生氏
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運営者 じゃあね、そういうカチカチの大企業の連中よりはぼくは多少は頭が柔軟だから、その環境と経営の対立の話を聞かせてください。
神保 3月半ばまでメキシコ・アメリカに4週間ぐらい行ってきたんです。
運営者 お疲れさま。
神保 これはどういう話かと言うとね、またこれも、なぜ日本で全然報道されないのかというのが、もう一つメディアの問題としてあるんだけど。カリフォルニア半島の中腹ぐらいの太平洋沿いにあるラグナス・サン・イグナシオ潟っていう湾があって、三菱商事がメキシコ政府と合弁で、潟に世界最大の塩田の開発計画っていうのを、5年くらい前からずっと申請してたわけだ。
これに対して大変な反対運動がメキシコ、アメリカで起こって、いよいよヨーロッパに飛び火しちゃったんだけど、環境保護運動っていうのはね、日本では殆んど存在も知らなれていないという、恐るべき状況が実はそこにあるんだけど。
アメリカではかなり新聞記事で出たし、『ニューヨークタイムズ』や『ロスアンゼルスタイムズ』に保護団体が意見広告を打って、それに対して三菱商事が、全面広告を次から次へ出して論争するなんていう、大変な喧嘩があった。
これはね、最終的に三菱商事が断念して、全面的大敗北になるんだけど、どういうことかというと、ラグナス・サン・イグナシオ潟は、まず世界遺産に指定されている。その理由というのが、英語でグレー・ホエールって言うんだけども、コククジラという鯨の品種があるのね。そのコククジラの世界で最後の出産地なんだ。
で、三菱は、「塩田を作ってもクジラには影響がない、影響があったとしても微々たるものである」ということを、自分の所で発注したアセスメントで証明することで、これを乗り切ろうとしたわけだ。だけどここはもう、まったく人間が手を触れてないという、もう地球上にはほんとうにちょっとしか残っていない地域のひとつで、カリフォルニア・コククジラが子供に泳ぎを教えるところなんだ。
運営者 はあ? なんでですか……?
神保 干潟の潟っていうのは、塩分濃度が高いわけ。
だから泳ぎやすいから、クジラはそこで子供を産んで、子供がそこで浮きやすいから泳ぎを覚えて、で、アラスカにまた戻っていくわけだよ。そうすると、外敵なんかにそう簡単にはやられなくなると。
干潟の潟っていうのは塩分が高いから、どんな魚でも生きられるわけじゃないんで、クジラのような高等な哺乳類じゃないと調整ができないわけね。イルカとかクジラは大丈夫なんだよ、塩分が高くなっても。他の、サメなんかはそんな所に来ちゃったら死んじゃうわけ。
外敵もいない、それから浮くから泳ぎを覚えやすい、それから暖かいしというようなこともあって、そこに出産にきてるのね。コククジラというのはもともと北太平洋、南太平洋それから北大西洋と三箇所に生息してたんだけど、北大西洋と南太平洋はもう完全に全滅しちゃったんです。そこしか残っていないんだよ、今。
で、一時は2000頭レベルまで下がっちゃったんだけど、今は保護されて2万頭ぐらいまでやっと復活してきてるんだけどね。それで、そこに三菱は工場を計画をしたわけなんだよ。
三菱としては、「クジラに対して影響がない、クジラは減らない」という科学的な根拠を提示すれば問題ないだろうと思っていたわけ。これはね、完全に世界の環境運動っていうのを過小評価しちゃったのね。その科学なんていうのは、自分に都合にいいような調査結果を出してくれる人はいくらでもいるっていうのは、もうこの世界では常識なわけだよ。
別にそれは金で買っているというほどひどいレベルまでいかなくても、例えばある限定条件の下でリサーチを依頼して、「影響は微々たるものである」という結論に落とし込むなんていうのは、難しくないわけです。
運営者 それは役所が常にやってることですよ。
神保 まあ、日本では誰でもやってることでね。で、アセスメントというのは、第三者がやるっていう構造に今はなっていないわけじゃない。要するに、アセスメントってお金が掛かるけど、じゃあ誰が負担するかって言ったら、当然、工事の発注者。
運営者 つまり受益者ですよ。
神保 ということは、開発者がどこにアセスメントを発注するか、自分で選ぶようになっていて、結局殆んどはヤラセみたいになっちゃうわけなんだよね。
結局、最終的に大変な論争になって。ただの論争じゃないんだよ。このアメリカ・メキシコ・ヨーロッパの環境運動の連合軍というのはね、これはまあ凄かったわ、今回は。まず全面広告ができるでしょう。
運営者 その広告が打てる金があるっていうことですね。
神保 うん。でも、広告を打つことによって、さらに人々を動員して……要するに商売と一緒だよ。広告を出す時っていうのは、「よく広告を出す金がありますね」って聞くけど、そうじゃないんだと。広告を出せば売れるから、その広告がペイするんだという話だよ。
運営者 広告を出せばまた人が集まってきて、寄付金が来ると。
神保 「自分たちに大義がある。これは大義名分で勝てる」と判断すれば、それをどんどんプロモートしたほうがもっと集まってくるわけだよ。
運営者 そこで重要なのは、NGO側に大義があると思ったら、そこに反応してコミットしようとする人々の、市民としての意識があるっていうこと。
神保 市民の意識と同時に、その市民にどういうふうにアピールすれば、それが乗ってくるかというノウハウをNGO側も持ってるっていうことの両方だね。それは相乗的なものだよ。どっちかだけじゃないと思うね。