「原稿チェックが取材の条件」なんてとんでもない!
こうしたルールは、私にとっては当然であり、また一般的なことだと思うのですが、しかし、次回作の取材をやってみて、こうした原則を理解していない人が少なくないことがわかりました。
また企業の側も「原稿を見せなければ取材に応じない」という、とんでもない勘違いをしている会社が少なくないというのが実状です。「原稿チェックが取材の条件です」と、堂々と要求してくるわけですから、こんな企業の反社会性はこの時点で明らかですよ。
一番ひどかったのは、こんなに親切な取材申込状を送っているにもかかわらず、税金を投入している施設に取材が終わった後で総務担当者が「ゲラを見せろ」と言うんですよ。「自分たちについてマイナスのことを書かれるのはくい止めることができる」と信じているらしいんです。「5年間広報担当をやってきて、ずっとそうしてきた」というんだから、無知とは心底恐ろしいモノですよね。この国が傾くはずですわ。
あきれて、「あんたは何を考えてるんだ。これは取材であるといって話を聞いているのに、憲法に定められている表現の自由をどうやって掣肘するのか、憲法に対抗できる根拠法令があるんなら示してみろ」と言ったら、「就業規則に書いてある」と言うんですよ。
あまりのばかばかしさに唸ってしまいましたが、私は限りなく親切なので、「まずその就業規則は憲法違反だから直せ。それから何か文句があるんだったら、出版の差し止め請求でも何でもやってみろ。そんなばかな話に裁判所が取り合うとも思えないが、もし裁判になったらそれはそれでおもしろい」と言うしかなかったですね。
如何ともしがたいことです。
つまりメディア側にも問題がある。この広報担当者にゲラを見せたばかな雑誌や新聞があったということでしょう。
ああ、それで思い出すのは「プレジデント」の前の前の編集長が、取材先ともめた時に「こんなことなら、先にゲラを見せておけば良かったね」と話していたこと。「こいつはほんもののバカだな」と思いましたね。それどころか、先方企業の社長が望むとおり印刷し直した「プレジデント」を30部ばかりつくって届けようとしたこと。完全に広告でミスした時の処理と間違えてるんですよ。これにはさすがに私も動かざるを得なくて、編集本部長に掛け合って止めるように指示を出してもらいました。まあこいつは、デスク時代からゲラを先方に見せるよう部下に指示していた大馬鹿者でしたが、私は一度として一緒に仕事をする機会はありませんでした。
今やメディアは狂っていて、新聞ですら掲載の前の日にゲラを取材先に送ることがあると聞いています。読者に対する裏切りであり、信じがたいことですが、事実です。取材馴れてしている人は、取材が終わった後に、「ある程度形になったところで送ってください」なんてさりげなく言う人すらいるほどです。送らないっつーの!!
こんなことで、メディアは本当に社会的責任を果たすことができるのでしょうか。私は今、企業体としてのメディアを離れた立場にいて、私の仕事は私自身でコントロールすることができるとして、一般メディアについては人ごとでなく心配になりますよね。だって私もメディアの情報の受け手の一人ですから。
神保 結局、「再販制度や広告についての問題があるのに、メディアが市民との間に緊張関係を持ったところで意味がない。組織の上の方ではもっともっと大きな妥協しているのに、まともなことをしても仕方がないじゃないか」とベテラン記者たちは思っていますよね。
「交通事故のもみ消しで妥協しているのに、弱者である市民に対して厳しい姿勢を見せるとすると、極端に言えば弱い者いじめじゃないか」なんてことすら思っているかもしれません。それで「警察の腐敗」なんて叩いても説得力はないですよね。どうせちょっと大きなスポンサーを叩こうとすると圧力がかかってくるわけですから。そういう空気は、前線の記者たちも感じていますよ。