取材を通して「民主主義を強化する」仕事
運営者 そこで、「ジャーナリズムとは一体何なのか」という全く基本的で、初歩的で、原理的ではありますが、どうしても押さえておかなければならないことについて、きちんと整理をする必要があると痛感しました。で、私が信頼するジャーナリストである神保さんのお話を聞きたいと思ったわけです。
全く初歩的な質問からさせていただきたいと思うのですが、ジャーナリストとはどういう仕事でしょうかね。
神保 うん、どこから話せばいいかな。もし個人個人が、自分の目で見て手が触れる範囲の情報しか手に入れることができなければ、世の中のことはほとんどわかりませんよね。
ジャーナリストは世の中で起きていることを人々に伝える仕事なんですが、その存在の大前提には「民主主義」があるんです。
非常に脆弱な民主主義を維持するために、ジャーナリストには主権者である市民がものを決めるために必要な情報を提供するという役割があるわけです。トーマス・ジェファーソンは、
「インフォームド・パブリックが民主主義の基礎である」
と言いましたが、つまり主権者が判断をするためには情報チャンネルをたくさん持つ必要があるわけです。そこで、いろんなスタンスのジャーナリストがあっても構わないわけで、情報のチャンネルが多いほど民主主義は強固になるわけです。
われわれは、政府に対しては納税者であり、政治に対しては有権者であり、生産者や企業に対しては消費者です。市民というのは「納税者、有権者、消費者」の総称であり、あらゆる意味で主導権を持っている立場のはずなんです。消費者は買うものを選ぶ権利を持っており、納税者は権限をゆだねている政府をチェックできなければなりません。
しかし、何かが起こった時にそれがどういう意味を持つのかを判断するために必要なある程度の情報をみんなが共有できなければ、一人ひとりがバラバラに存在することになってしまいます。みんなが、「これはひどい」という事実を知らなければ対処のしようがないわけです。
ですからジャーナリストというのは、自分たちの世の中がどうなっているのかを知るために、出来事を取材して伝えることを通して、民主主義を強化する仕事だと思っています。
運営者 ジャーナリストが伝える情報はどのようなものであるべきでしょうか。
神保 情報は、読者とか視聴者のために伝えるものです。
いいジャーナリズムというのは食べ物と同じで、面白くなければならない。おいしくないものはいくら栄養があってもみんな食べようとはしません。でも、喜怒哀楽の面白さを提供するだけの内容では程度が低いと思います。いいジャーナリズムであれば、面白くて興味深い上にさらに、「なるほどこういうものがあるのか、いい話を聞いた、よかった」という要素が必要でしょうね。
そして、食べ物を食べる本来の目的は栄養をつけるためなわけですから、本来の目的である栄養がなければなりません。ニュースに音楽を入れたりして添加物を加えればある程度満足できるものにはなります、しかしそれだけでは食べることの本来の目的を満たしていることにはなりません。市民社会に情報をフィード(飼料を与える)のが目的なんです。
栄養のある材料をどうおいしく料理するかという組み合わせを考えるべきなんです。