「よく私にそこまでしゃべらせたね」と言わせるには
運営者 そうすると、取材する側としてはどうしても話を取りたい時にはどうすればいいですか。
神保 日参するか、夜討ち朝駆けするか雨の中で立っているか、それはこちらとしてはなんだってやりますよ。ジャーナリストとしては織り込み済みのことだと思いますよ。だけど、駆け出しの記者はついつい取材しやすいところに行ってしまう傾向があるので、そうなるとヤバイですよね。若い人にはハッパをかけるようにしています。
運営者 どうすれば、聞きにくい話を取材対象者から聞き出すことができるでしょか。
「よく私にそこまでしゃべらせたね」、と相手から言われるような場合には、相手との信頼関係ができているわけで、そこのところで、記者のレベルが一番問われるわけです。
それで、チープ・トリックとしては、いかにもその相手にシンパシーがあるように、「これってひどいと思いませんか」と話を持っていくようなやり方でしょうか。政治ジャーナリズムはそういうところがあって、「○○さんがこう言ってましたよ」というふうに持ちかけて、帰ってきた返事をまた違う人のところに持っていってコメントを引き出すということをやっている。
取材対象者のライバルを批判して、自分がさもその取材対象者の同調者、賛同者であるというな雰囲気を出すという手法はありますが、ここでやってはまずいのは、「私はあなたを応援しているんですよ」とは絶対に言ってはならないということでしょう。そういう姿勢を見せて取ったコメントで相手にマイナスになる記事を書いたとしたらば、相手に「あいつは嘘をついた」と思われてしまいます。これは最低ですね。
僕もいろいろな手を使ったけれど、なんだかんだやったあげく、もし本当に相手との信頼関係を築きたいというときには結構、正攻法が一番良いのでは。
相手が取材に前向きではなくて、かつ相手の話がどうしてもその取材に必要なときは、自分がどういう目的をもって、どう考えてこの取材をやっていて、なぜその話を聞くのが重要なのかということを真正面から話すんですね。20年近くこの仕事をやってきて、結局最後に残った手はそれですよ。質の良いリソースが欲しければ、取材対象者が心地よいことを話して、それで言ってくれるようなレベルのリソースは、量をたくさん集めることができても、必ずしもそれは質の高いものではないんです。調子がいいことを言って取ったリソースは、実は時間の無駄ということが多いですよ。逆に、自分が取材をしたい意思が相手に伝わって、相手が必ずしも得するわけではないのに取材に応じてくれた場合、その人のリテラシー度が高いだけに、取材の内容もいいものになるはずです。